【NY発】暗号通貨業界への投資が急増、弱気市場でも雇用も伸びる

2022/09/06
MessariとDove Metricsの最新の報告より

暗号通貨(クリプトカレンシー)業界が2022年上半期に集めた投資額は303億ドル(約4兆2420億円)と、21年通年の投資額である302億ドルを上回ったことが分かった。「暗号資産の冬」といわれたベアマーケット(弱気市場)と同時期に堅調な資金調達がされていたことが分かる。人手不足も問題となっており、業界の成長を示すデータがそろい始めている。

暗号通貨業界の調査会社MessariとDove Metricsの最新の報告によると、今年上半期に1199件の投資ラウンドがあり、303億ドルが投資された。投資件数が最多だったのは、Web3あるいはNFT関連ベンチャーで530件(86億ドル<約1兆2073億円>)だった。

特に、NFT関連企業1社が受けた投資額で最も多かったのは500万〜1000万ドル。第1四半期の全体の投資額は27億ドル(約3790億円)だったが、第2四半期には40億ドル(約5613億円)に跳ね上がり、「NFT人気」が浮き彫りになった。

また、NFTで投資が最も多く向かったのはゲーム分野で、マーケットプレイス、アートが続いた。

一方、金融機関・取引サービスなど中央集権型金融関連(CeFi)企業は222件だが102億ドル(約1兆4314億円)と、全体の投資額の3分の1を集めた。分散型金融(DeFi)は195件で18億ドル(約2526億円)だった。

コンサルティング大手の英プライスウォーターハウスクーパース(PwC)のリポート(22年6月)によると、ヘッジファンドの38パーセントがデジタル関連資産に投資した。21年末は全体の21%だったため、10ポイント以上上昇したことになる。

「暗号資産の冬」では、米コインベースが社員の18パーセントを一時解雇するなど、大手企業は雇用調整を迫られた。しかし、投資が増えれば、業界の雇用が勢いづくのは当然だ。

米コインテレグラフなどによると、NFT、メタバース、ゲーム、DeFi関連企業では、人手不足が深刻で求人は売り手市場になっているという。
 
Metaverse Styleがインタビューしてきたこれら企業の最高経営責任者(CEO)らは、「市場はまだ成熟していない黎明期」「現在の利用者はアーリーアダプター(先取りする人々)」という認識で一致している。また、上半期の投資総額が303億ドルだったとしても、Web2の顔であるMeta Platforms(旧Facebook)の時価総額は4308億ドル(約60兆4584億円)、Google、YouTubeなどの持ち株会社の米アルファベットに至っては1.4兆ドル(約196兆円)だ(9月5日現在)。比較してみれば、暗号通貨業界が、まだいかに小規模であるかが明らかだ。つまり、「伸びしろ」は限りなく広がる余裕がある。

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「暗号資産の冬」を経て、業界の経営者が、先行きや新規雇用の見通しについて、慎重な姿勢を示すのは当然といえる。しかし、データを見る限りは、「マネー・イズ・ヒア(資金はある)」という状況であるのは間違いない。

津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。