「紅包」からNFTへ 2022年、春節の変容を探る 中国NFT動向(4)

2022/03/04

中華圏最大の祝い事である「春節(旧正月)」。中国各地では、移動制限が設けられつつも同時期に迎えた北京冬季五輪の開催により、例年以上の祝賀ムードにあふれていた。従来なら「紅包(お年玉)」で彩られてきた旧正月だが、2022年はNFTやメタバースといった新概念が盛り上がりをみせた。その模様を紹介する。

中国発のオリンピックIPの大躍進
北京冬季五輪のマスコットキャラクターとして紹介されるや、中国内のみならず日本や世界でも人気を博した「冰墩墩(ビンドゥンドゥン)」。中国では関連製品の売り切れが相次ぎ、北京冬季五輪の主役の一人ともなった。さまざまなグッズが販売されるなか「数字藏品」(※NFTの中国語訳)として新しい命を吹き込まれたのは、ごく自然な流れだったのかもしれない。

2月12日、北京冬季五輪委員会と正式なライセンス契約を結んでいるオリンピックコンテンツプラットフォーム「nWayPlay」で、ビンドゥンドゥンのNFTコンテンツが販売された。人気コンテンツがNFT化するのは近年よく見られる事象だが、ビンドゥンドゥンNFTについては注目すべき点がある。

(公式販売ホームページより。中国外向けのNFTコンテンツ販売であり、中国内では購入不可だった)

1点目は、購入しても中にどんなコンテンツが入っているかわからないという、中国で近年人気を博している「盲品」という販売形式であることだ。盲品は日本のいわゆる「ガチャガチャ」と類似していて、購入した商品の中身を開封前に想像することや全種類を収集する楽しさが中国でも定着している。ビンドゥンドゥンNFTは複数種類あるとされ、購入意欲を刺激する。

2点目は転売だ。中国ではNFTの転売や投機行為は不当とされ、多くのプラットフォームもそう明言している。ビンドゥンドゥンNFTは一人当たりの購入が5個に限られている上、1種類あたりの販売数も500個。当初は正規プラットフォームで99ドル(約1万1000円)だったが349ドル(約4万円)まで販売価格が修正された上、オークションでは8万8888ドル(約1000万円)まで高騰した。

(最下部の強調部内に、高騰した価格がみてとれる。中国メディア新浪网より引用)

ビンドゥンドゥンNFTは、中国外の市場を中心に販売されていた。中身がわからないにもかかわらず売り切れた点や、投機的な要素を考慮すると、中国発のNFTコンテンツが海外市場にも受け入れられつつある象徴といえるのではないだろうか。

メタバースで味わう春節
新型コロナウイルスの流行による移動制限が緩和される国も現れるなか、中国は感染拡大防止のためいまだ厳しい対応策を維持している。各地で開かれる予定だった春節関連の催しものも、形を変えざるを得なくなった。

筆者の住む広東省の広州市では、従来は春節明けに繁華街の北京路で開かれる年始市「广府庙会(広府廟会)」がメタバース化されることになった。広府廟会は広州で数百年以上にわたって続いてきた催しもので、広州の伝統建築や大道芸が楽しめ、広東文化を味わえるとして中国でも高い知名度を誇っている。

(紹介動画から抜粋)

今回のメタバース化は、「广府庙会元宇宙(広府廟会メタバース)」と名付けられ、広州市政府が主催した。広府廟会自体は北京路で規模を縮小して実施し、メタバース化は来場者数を抑えることと移動制限によって参加できない観光客のためという。2月16日からの開催にかかわらず発表は直前の14日だったため、楽しみにしている顧客への周知が十分なのかは、少々疑問に思われるところだ。

(実際の体験内容。広東省の伝統建築や春節の飾りつけを忠実に再現している)

メタバース内で完結させるだけではなく、現実世界との融合も試みられている。広府廟会メタバースでは広州のお土産店や名物料理が紹介されており、メタバース内で購入すると自宅まで宅配するサービスも展開。来場者間の交流については改善の余地があるが、広府廟会の宣伝効果は期待できそうだった。

■中国最大の流行発信プラットフォーマー「小红书(RED)」のお年玉NFT
多くのデジタルプラットフォームが混在する中国だが、Z世代を中心とした若者たちの流行を発信しているのは「小红书(RED)」だろう。21年12月の報道によると、月間アクティブユーザーは2億人以上だという。REDでは多くのフリークリエーターがファッションや旅行、ライフスタイルなどを発信、投稿している。

(REDは若者の消費形態にも大きな影響を与えている)

同年11月にはNFTコンテンツを中心としたデジタルアーツを発表、販売する場として「R-SPACE」がサービスを開始。ネットサービスの騰訊控股(テンセント)や中国EC最大手アリババ集団に追随する形でNFT領域に進出したといえるだろう。RED公式のNFTコンテンツとしても「R-数字藏品」の名で数十以上のNFTコンテンツが販売されつつある。

(POPアートを意識したようなデザインの「R-数字藏品」。公式アプリより)

消費意欲はあっても購買力の強くない若年層にとって、REDを通じて知るものが初のNFTコンテンツになり得る。また他分野で活動しているクリエーターが、NFTコンテンツ制作に取り組むきっかけづくりにもなり、市場を広げるという意味でも注目できる。

(公式アプリより。今後も同様のNFTイベントは開催されると予測される)

春節期間にあたる2月初旬には「元宇宙庙会-メタバース初詣」と銘打って、NFTコンテンツの抽選会が行われた。このイベントには、春節時に配られる「紅包」の文化が根底にあるような印象を受ける。

若年層と若手クリエーターにとってのNFT認知度と、伝統文化の組み合わせは一見矛盾してみえる。しかし今の中国で盛んな「国潮(復古中国文化)」も、実は若年層から火が付いた。NFTとメタバースでも、2022年以降、同様の現象は起こり得るのではないだろうか。