【NFTWeekly特別号】2021年メタバース・NFT動向振り返り/2022年のトレンド予想

2022/01/04

2021年は「NFT」「メタバース」がバズワードとなった年だった。2022年初のNFTWeeklyでは、 2021年のメタバース・NFTに関する主要な動向を振り返りながら、2022年のトレンドを予想する。

目次

  1. 2021年の動向概要(まとめ)
    NFTの取引額が世界的に急増
    NFTブームはコレクタブルNFTとNFTゲームが牽引
    「メタバース」という言葉の認知拡大
  2. 2021年を象徴するできごと
    3月:最初期のNFTである「CryptoPunks」が8.7億円で取引される
    3月:デジタルアーティスト「Beeple」によるNFTアートが75億円で落札
    4月:人気NFT「Bored Ape Yacht Club」が初めて発売
    7月:Facebookが、メタバース企業への移行を表明
    8月:NFTゲーム「Axie Infinity」がDAU100万人突破、「Play to Earn」が注目を集める
    8月:「Loot」が登場、ユーザー主導NFTへのゲームチェンジ
    10月:Facebookが「Meta」に改名、「メタバース」がバズワードに
    11月:メタバースゲーム「The Sandbox」がソフトバンクなどから105億円調達
    12月:NIKEがスニーカーNFTのRTFKTを買収、メタバース領域強化
  3. 2021年の国内メタバース・NFT動向
    大企業のNFTマーケットプレイス参入相次ぐ
    アーティストのNFT参入が活発化
  4. 2022年のトレンド予想
    NFTブームが一段落、音楽NFTなど一部は盛り上がる
    マルチ・メタバースの準備が進む
    日本では有名コンテンツのNFT参入が続き、「NFT」が市民権を得る

1.2021年の動向概要(まとめ)

NFTの取引額が世界的に急増

2021年は、世界でのNFTの取引額が急激に増加し、NFTブームといえる事態が起きていた。最大手NFTマーケットプレイスのOpenSea(オープンシー)における年間の総取引額を見ると、2020年は約1,831万ドル(約21億円)だったのが、2021年には約130億ドル(約1兆4964億円)と700倍以上の増加を記録した(DappRadarのデータから計算)。

NFTブームはコレクタブルNFTとNFTゲームが牽引

NFTブームを牽引したのは、主にコレクタブル(収集品)NFTとNFTゲームの2つである。コレクタブルNFTは、NFT自体には特に決められた使いみちがなく、コレクションや展示、コミュニティへの参加やアイデンティティの表明といった目的で購入・所有される。有名なものでは、「NBA Top Shot(エヌビーエー・トップ・ショット)」や「CryptoPunks(クリプトパンク)」、「Bored Ape Yacht Club(ボアード・エイプ・ヨット・クラブ)」などがコレクタブルNFTにあたる。

NFTゲーム(※「ブロックチェーンゲーム」と呼ばれることが多い)では、ゲーム内のアバターやスキン、アイテム等としてNFTを利用できる。夏頃に話題を呼んだ「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」というポケットモンスターのようなゲームが、NFTゲームの人気に火をつけるきっかけとなった。

「メタバース」という言葉の認知拡大

Facebookがメタバース企業になると発表したことなどから、「メタバース」がバズワードとなった。ソフトバンクビジョンファンドが「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」の100億円超の資金調達をリードするなど、メタバースプラットフォームも注目を集めた。

2.2021年を象徴するできごと

3月:最初期のNFTである「CryptoPunks」が8.7億円で取引される

CryptoPunksは、Larva Labsによって2017年に無料で配布された10,000個のNFTシリーズで、最も初期のNFTのひとつである。描かれた人物のキャラクター画像は複数の特徴の組み合わせでできており、「宇宙人」「ゾンビ」はレアリティが高いといったレア度の分布も存在する。

CryptoPunksは2021年初めまではひとつあたり約1万~10万円程度で取引されていたが、2月頃から徐々に価格が上昇し始め、2021年3月11日、2つのCryptoPunksがそれぞれ過去最高額となる4,200ETH(約8.7億円)で取引された。2022年1月現在、最も安価なCryptoPunksの価格は約2,870万円程度で、最も高額なコレクタブルNFTのひとつとなっている。

3月:デジタルアーティスト「Beeple」によるNFTアートが75億円で落札

CryptoPunksが最高額を付けたのとほぼ同じタイミングの3月11日、オークションハウスのクリスティーズが開催したオークションで、デジタルアーティスト「Beeple」のデジタルアートコラージュNFTが約75億円という高値で落札された。これはクリスティーズで販売された現存するアーティストの作品において過去3番目の高額落札で、NFTアートが注目を集めるきっかけになった。

4月:人気NFT「Bored Ape Yacht Club」が初めて発売

Bored Ape Yacht Club(BAYC)は、米Yuga Labsによる、類人猿をモチーフにした10,000個のコレクタブルNFTだ。2021年4月にOpenSeaで1つ0.08ETH(当時の価格で約1.8万円程度)で発売されたが、人気により価格が高騰し、2022年1月現在最も安いNFTでも約2,800万円程度で取引されている。

BAYCの特徴として、NFT所有者に限定されたクローズドなコミュニティの存在と、誰でも所有するNFTを二次利用・商業利用できる点が挙げられる。

NFT所有者のみが参加できるDiscordチャンネルには著名人が多く参加し、活発な交流が行われている。BAYCの購入を表明している著名人は、NBA選手のステフィン・カリー氏やラッパーのリル・ベビー氏、リンキン・パークのマイク・シノダ氏、DJのスティーヴ・アオキ氏など数多い。BAYCのNFTは、こうした著名人も参加するクローズドコミュニティに入るための会員権のような役割を果たすため、高い価値がついている。

また所有者は自分のBAYCキャラクターを自由に利用できるため、BAYCブランドのサービスやコンテンツが次々に制作されている。たとえば11月にはBAYCのキャラクターで構成された音楽バンド「KINGSHIP」が米Universal Musicからデビューするとの発表や、12月にはiOSデバイス向けモバイルゲーム「Apes vs Mutants」のリリース予定の発表があった。

7月:Facebookが、メタバース企業への移行を表明

米Facebookは、2021年7月26日にメタバース関連の新たな製品グループ「Metaverse product group」の立ち上げを発表した。また7月28日には、同社CEOのマーク・ザッカーバーグ氏がアナリスト向けの四半期決算発表会見で、Facebookは「メタバース企業」となることを強調した。

同氏は7月に公開されたThe Verge紙のインタビューで、メタバースについて「ゲームやコンテンツの視聴だけでなく社会的な交流や仕事、ダンスやフィットネスなど、様々な経験ができるインターネットで、遠く離れた人と同じ場所にいるかのような交流ができる」ものだと説明した。

8月:NFTゲーム「Axie Infinity」がDAU100万人突破、「Play to Earn」が注目を集める

「Axie Infinity」は、ベトナムのゲームスタジオSkyMavisが2018年にリリースした、ポケモンからインスピレーションを得たといわれるモンスター対戦型ゲームだ。「Axie」と呼ばれるモンスターを育成・対戦させ、新たなAxieを誕生させる。各AxieはNFT化されており、マーケットプレイスで販売・購入することが可能。

2021年にはフィリピンなどの国を中心にAxie Infinityプレイヤーが増加し、7月には8月には、DAU(1日のアクティブユーザー数)が100万人を突破したとの公式発表があった。人気の背景には、「稼げるゲーム」という点がある。ゲームを遊ぶと入手できる「AXS」「SLP」という通貨や新しく誕生したAxieを、新規プレイヤーや効率よくゲームを進めたい人に売ることで、7~8月には1日に約3,000円以上の収益が得られた。

Axie Infinityは、「Play to Earn」(遊んで稼ぐ)のモデルの成功事例となり、NFTゲームに火をつけるきっかけとなった。その他2021年に人気になったNFTゲームには、「Splinterlands」や「Townstar」、「Star Atlas」などがある。

8月:「Loot」が登場、ユーザー主導NFTへのゲームチェンジ

Loot(ルート)」は、6秒動画で知られる「Vine」の共同創業者Dom Hofmann氏が2021年8月27日に立ち上げたNFTプロジェクトである。冒険者向けの8種類の装備が記述された文字列だけのシンプルなNFTにもかかわらず、発行から現在まで4ヶ月強で約300億円が取引されている。

Lootが画期的だったのは、LootのNFTの利用方法や価値づけがすべてユーザーに任されていたことだ。Hofmann氏はただ最初のNFTの配布を行っただけで、NFTを利用したアートやゲームはすべてユーザーが自発的に制作したものになる。

LootはイーサリアムのNFT用標準規格に則って作られているため、Lootを使ったサービスを作るのに必要な仕様や情報はすべてイーサリアムの開発者向けドキュメントで公開されている。Lootは、こうしたNFTならではの特徴を生かし、ユーザー主導型プロジェクトという新しい形を生み出した点で画期的だった。

10月:Facebookが「Meta」に改名、「メタバース」がバズワードに

米Facebookは28日、社名を「Meta(メタ)」に変更した。ザッカーバーグCEOは、同社の事業が「SNS(Facebook)に加えて、画像共有アプリやメタバースと呼ばれる仮想空間の構築に広がっている」として「当社の事業すべてを包含する社名が必要だ」と社名変更の理由を述べた。

Facebook、メタバース事業への勝算は?:ついに社名変更 Facebookのメタバースは成功するのか

Facebookの発表後、「メタバース」はメディアで取り上げられる回数が大きく増え、Googleトレンドでの検索人気も急上昇した。

Googleトレンドの「メタバース」人気度動向

11月:メタバースゲーム「The Sandbox」がソフトバンクなどから105億円調達

香港のNFTゲーム企業「The Sandbox(ザ・サンドボックス)」が2021年11月、ソフトバンクグループ(SBG)傘下の「SoftBank Vision Fund 2(ソフトバンクビジョン・ファンド2)」などから、9300万ドル(約100億円)を調達した。

同社は「The Sandbox」と名付けたNFTを利用したメタバースゲームが人気。ユーザーはゲーム内で使えるキャラクターやアイテム、ゲームなどを”ボクセル”と呼ばれる正方形の組み合わせで自作し、NFTとして販売できる。累計ダウンロードは4,000万超。

メタバース・NFTゲームの「The Sandbox」、ソフトバンクグループから約100億円調達

The Sandbox上の土地「LAND」は、4月ごろには安いものであれば1つあたり約30万円程度(当時のレート)で購入できたが、資金調達の報道後には最安値でも1つ100万円以上と価格が高騰している。12月23日には、世界的なコンサルティンググループのプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が「LAND」を購入したとの発表もあった。

12月:NIKEがスニーカーNFTのRTFKTを買収、メタバース領域強化

米スポーツブランドNIKEは2021年12月13日、NFTスニーカーなどで知られるRTFKT(アーティファクト)を買収したことを発表した。

RTFKTは2020年1月に創業し、デジタルスニーカーのNFTで支持を集め、2021年2月には合計310万ドル(約3.4億円)を売り上げた。2021年11月には、アーティストの村上隆氏とコラボしたアバターNFTシリーズ「CloneX」を販売し、総取引量は3週間で約6,500万ドル(約74億円)を超えている。

(出典:RTFKTのツイート

NIKEは、2021年11月にオンラインゲームのプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」上に「NIKELAND」を開設するなどメタバース領域の取り組みを強化している。RTFKTの買収も、NIKEのメタバース本格参入の一環とみられる。

3.2021年の国内メタバース・NFT動向

大企業のNFTマーケットプレイス参入相次ぐ

2021年、国内では大手企業がインターネット上でNFTを製作・販売・購入できるNFTマーケットプレイスに相次いで参入した。背景には、2021年にNFTの取引額が急増し、手数料収入を得るNFTマーケットプレイスが魅力的なビジネスとなったことや、「OpenSea」など海外のNFTマーケットプレイスを利用するには暗号資産の知識や英語が必要なことが多く、ハードルが高いことなどがある。

  • コインチェック
    2021年3月に国内初のNFTマーケットプレイス「Coincheck NFT(β版)」をリリース。メタバースゲームThe Sandbox上の土地「LAND」などを扱う。
  • LINE
    子会社のLVCが2021年6月に「LINE Blockchain」基盤のNFTアイテムが取引できる「NFTマーケットβ」の提供を開始。2022年春にNFTの発行・一時販売などが可能な機能拡充を予定している。
  • GMO
    2021年8月にNFTマーケットプレイス「Adam byGMO」をリリース。アートやイラストなどを扱っている。
  • SBI
    2021年9月、スマートアプリの提供するNFTマーケットプレイス「nanakusa」をSBIホールディングスが買収した。現在は「SBI NFT」に名称が変更されており、認定クリエイターの作品等を取り扱っている。
  • 楽天
    2022年春にNFTマーケットプレイス「Rakuten NFT」をリリースする予定と発表している。

アーティストのNFT参入が活発化

2021年には、音楽やVRアート、イラストなど様々な分野で日本人アーティストのNFT参入も多く見られた。日本だけでなく海外からの人気も高かったNFT販売の代表例を紹介する。

  • 坂本龍一氏(作曲家)
    2021年12月21日に、代表作「Merry Christmas Mr. Lawrence」の音源NFTをAdam byGMOで発売した。発売当日は購入希望者のアクセスが集中し、サーバダウンも起こった。
  • せきぐちあいみ氏(VRアーティスト)
    2021年4月2日に、作品「Alternate dimension 幻想絢爛」NFTをOpenSeaに出品し、約1,300万円で即日落札された。
  • さいとうなおき氏(イラストレーター)
    ポケットモンスター公式イラストなどを手がける。2021年10月に自身のイラストNFTをOpenSeaに出品し、約600万円で落札された。
  • 村上隆氏(現代美術アーティスト)
    2021年3月に花を題材にした108個のピクセルアートNFT「Murakami.Flowers」をリリースすると発表していたが、発売を取りやめ延期した。2022年春に再リリース予定。

4.2022年のトレンド予想

NFTブームが一段落、音楽NFTなど一部は盛り上がる

これまで見てきたように、2021年は空前のNFTブームが起きた年だった。しかし、2021年の冬頃からNFT価格は落ち着き気味だ。11月に発売されたRTFKTのアバターCloneXでさえも、NIKEの買収発表前には最安値がほぼ横ばいの2~2.5ETH(約80~100万円)程度で推移していた。

NFTは誰もが発行可能なため、市場にはNFTが無限に供給されていく。NFTを利用したプロジェクトの数が増えていくにつれ、一部の人気プロジェクトを除いて値上がり期待・投資目的でのNFT購入は減るだろう。2022年内には、NFT熱はいったん落ち着きを見せるのではないか。

一方で、音楽NFTは2022年に盛り上がる可能性がありそうだ。2021年12月には音楽NFTプラットフォームのSound.xyzが5.7億円の資金調達を行った。同社は、NFTによって直接アーティストがファンとつながることで、YoutubeやSpotifyといったストリーミングサービスよりもアーティスト多く収益を得られるようになると述べている。

一部の人気アーティスト以外は稼ぐことが難しいという現在の音楽業界の課題をNFTが解決する事例が、2022年には多く出てくるかもしれない。

マルチ・メタバースの準備が進む

現在、「The Sandbox」「Decentraland(ディセントラランド)」「Cluster(クラスター)」「VR chat」など様々なメタバースのプラットフォームが存在する。こうしたメタバースプラットフォームは各自が独立したクローズドな空間となっており、相互運用性がないため、メタバース間をまたいだコミュニケーションやアイテム・アバターの共有などは難しい。

今後、メタバースに参加する人が増えるにつれてこうしたメタバース間の断絶は重要な課題となり、数年かけてメタバース間の相互運用ができる「マルチ・メタバース」に向けて規格やネットワークが整備されていくだろう。2022年はマルチ・メタバースに向けた準備期間として、基盤整備が着実に進んでいく可能性が高い。

日本では有名コンテンツのNFT参入が続き、「NFT」が市民権を得る

世界的にはNFTブームが一段落する可能性があるが、日本では2022年春に「Rakuten NFT」のリリースやメルカリとパ・リーグのNFT販売などが控えており、NFTへの新規参入は2022年も継続すると考えられる。人気キャラクターや漫画、アニメなどのNFT発行も引き続き行われ、ブロックチェーンや暗号資産の領域に詳しくない人でも「NFT」という言葉を日常的に耳にするようになったり、実際にNFTを購入する機会も出てくるだろう。

「NFT」という言葉が市民権を得るのと同時に、NFTや仮想通貨を語った詐欺事件の増加にも注意が必要だ。

2017年に日本でICO(イニシャル・コイン・オファリング:仮想通貨を利用した資金調達方法)を謳った詐欺が蔓延したように、「NFTだから価値がある」「必ず儲かる」といった誘い文句で不当に金銭を巻き上げる事件が今後増加することだろう。メタバース・NFTの利用が健全に広がる2022年となることを期待したい。