メタバース観光地登場、官公庁も協同 拙速さに批判の声も 中国メタバース動向(2)

2021/12/30
Reworld公式HPより

中国でも市民権を獲得しはじめた、メタバース。そのプレーヤーも多様化しつつある。今回は巨大企業以外のプレーヤーと、公的機関による取り組み、また今後懸念されるメタバースバブルについて紹介したい。

【連載:中国メタバース動向】
一足遅れた中国メタバース、百度(バイドゥ)など進出加速 中国メタバース動向(1)

■バイトダンスもメタバースへ進出

中国のデジタル企業は業務の多角化を図る傾向にあり、ショートムービーアプリ「TikTok」を中心に事業を展開してきた北京字節跳動科技(バイトダンス)も、現在はNFT領域やメタバースへの進出を進めている。同社は2021年4月、「重启世界(Reworld)」を開発・運営する北京代码乾坤科技へ、1億元(約18億円)の投資をしている。

NFT領域では、自社ブランドを活かしたバイトダンスだが、今回は別戦略を採用したようだ。Reworldの公式HPより引用


乾坤科技は18年に立ち上げられた企業で、Reworldは物理エンジンなどを導入したうえでプレーヤーがー自身の思い描いた世界を創り上げられるゲームプラットフォーム。先行する米国発のオンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox」は06年リリースで、出遅れはしたが、パソコン端末ではなくスマートフォンなどの移動端末を主軸にしている優位性や、創作だけではなく他のプレーヤーとの交流が充実している点を強く打ち出している。


Reworldは開発時点からバイトダンスとの関係性を重視しており、かつてはTikTok内で、Reworld開発チームによる日々のアップデート状況について発信していた。TikTokが動画投稿の垣根を引き下げたのに対し、Reworldは仮想世界の創作活動をより広めたといえるだろう。

ゲーム業界におけるメタバース領域への試みは、創作活動だけにとどまらない。広大な世界を冒険するオープンワールド式のゲームでもメタバース的な試みが展開中だ。20年に上海米哈游網絡科技(miHOYO)によってリリースされた「原神」は、7000万人以上ともいわれるユーザーがオープンワールド内での冒険を楽しんでいるが、さらなる拡充が計画されている。

すでにゲーム中でも本編以外に、楽曲や建築、ゲーム内での恋愛など、さまざまな角度から自由度を高めている

またmiHOYO は21年3月から、上海交通大学医学院附属の瑞金医院と戦略的パートナーシップ協定を提携し、「脳神経の信号をいかに機械に伝達するか」という研究を開始。同社の創業者の一人である蔡浩宇最高経営責任者(CEO)は、メタバース社会への取り組みとして「2030年までに10億人が生活する仮想世界を構築する」という目標を掲げており、今後の動向が注目される。

上海交通大学での公開講座時に発表された、10億人が暮らす仮想世界の構想

メタバース観光地を目指す都市も

民間企業の取り組みを中心に紹介してきた中国メタバースだが、公的な領域からもメタバースについて取り組みが始まっている。世界自然遺産にも選ばれた奇岩が広がる中国有数の観光地、湖南省の張家界市で設立された「張家界元宇宙研究中心(メタバース研究センター)」は、中国発となるメタバースを軸とした観光戦略を目指し始めた。

米ヒット映画「アバター」の世界観にも影響を与えたといわれている、張家界の奇岩風景

張家界メタバース研究センターは、現地政府のDX推進課内に設立された組織で「メタバースという表現手法を用いて、より広く張家界の魅力を発信していく」と宣言している。


公式発表を下記に引用する。

「幻想的な自然風景で知られている張家界は、まるで非現実的な世界であるメタバースにいるかのような認識を与えてくれる。すでに張家界では5Gを導入したライブストリーミングや、ビッグデータを用いた現地環境整備は進められてきたが、メタバースという新しい次元に踏みことが必要と判断し、研究センターが立ち上げられた。今後はいついかなる環境でも、張家界の幻想的な風景や感覚を楽しめられるような体験、またその開発が、研究センターの目指すものになるだろう」

設立式の一幕。 張家界メタバース研究センター 公式HPより引用

中国国内初の官庁による取り組みだが、具体的な成果がみえてくるのはまだこれからだ。中国国外でいえば、韓国のソウル市でもメタバースを行政に取り組むんでいる。今後は中国でも、行政サービスにおけるメタバースの取り組みが期待できるかもしれない。

過熱するメタバース投資熱

中国のITビジネスは従来、急速に成長するにつれ過剰な投資や営利目的のセミナーなどが多くみられていた。メタバースについてもすでに同様の傾向が散見されている。

メタバースについての有料オンラインサロンや有料セミナーは、すでに各地で多数開催されている。2500万円以上の利益を生み出すセミナーも報告された。中国国内の大手メディアではかつての過熱した不動産投機とメタバース関連商法をなぞらえることもあり、その多くが批判的な論調だ。

セミナー内容についても、懐疑的な意見が寄せられている


認知が広がる中国メタバース。その健全な成長のために、急すぎる拡大は押しとどめる方が適切なのかもしれない。政府ももちろん、その動向を注視していることだろう。