一足遅れた中国メタバース、百度(バイドゥ)など進出加速 中国メタバース動向(1)

2021/12/28
中国ではバーチャル故宮旅行をはじめ、さまざまなオフラインコンテンツがオンライン化された

中国EC最大手のアリババ集団や中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)など、すでに中国デジタル産業の巨頭が足を踏みいれている、NFT分野。そのNFTが広く活用され始めている、インターネット上の仮想空間「メタバース」においても、各社はすでに動きを加速させている。今回は中国におけるメタバースの動向と巨大プラットフォーマーの動きについて紹介したい。

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一足遅れた、中国メタバースの成長

Facebookから Meta への社名変更で注目を浴びたMetaverse。日本においては「Metaverse(メタバース)」とそのままカタカナ読みされているが、中国国内では通例にのっとり、すでに中国語に対応する単語が充てられている。翻訳された単語は「元宇宙(yuanyuzhou)」。中国語で「元」は「多元、異なる」を意味しており、「宇宙」は「世界観、世界」をあらわす。すでに中国国内では「元宇宙」がメタバースを示す言葉として、市民権を得ている。

中国におけるメタバースについて調べてみると、国内では意外なことに成長は遅かったというのが筆者の見解だ。

例えば米国発の「Second Life」や、日本の「あつまれ どうぶつの森」のような、自身が世界観を作る、時代やメタバースを象徴する作品はすでに10年以上前から存在しているものもある。

中国では、そのような世界観を生み出すプラットフォームの成長に時間がかかった一方、ARやVRといったメタバースの世界観を実現するための技術は、すさまじい速さで発展している。例えば2020年初め、コロナ禍で世界中が動きを止めている中で中国は、国内バーチャル観光ツアーを推進するなどさまざまな「メタバース的な」試みを進めていた。

中国の国営メディアをはじめ、国内各地で注目を集め始めたのは、2021年11月頃からだ。先行するNFT関連の報道からするとおおよそ半年ほど遅れているのではなかろうか。ちなみに中国国内では、NFTに関しては広くブロックチェーン専門メディアなどで扱われているのに対し、メタバースを重点的に扱うメディアはまだまだ少数。加えて11月からの個人情報保護法(个人信息保护法)の施行開始に伴い、国営メディアから向けられる目はいずれも厳しい。

「NFT:通往元宇宙,还是走向大骗局?-NFT:メタバースへの道かそれともペテンか?」として人民日報から発表された記事

各巨大企業によるメタバースへの取り組み

温かいとはいえない視線にさらされている中国メタバースだが、投資や企業事例はすでに多く生まれている。20年にはテンセントが、自身で世界観を構築できるオンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox」へ、1.5億米ドル(約170億円)の投資を行った。これによりテンセントは、世界で1億人以上のユーザーを誇るRobloxの、中国国内の独占代理人となっている。

「Roblox(罗布乐思)」の公式HPより引用

中国の大手検索エンジンで、近年は自動運転など各種デジタルサービスを提供・開発している百度(バイドゥ)は21年11月、思い切った発表を行った。17年からバイドゥが行っていたAI開発の公開発表会である「Baidu Create-百度AI开发者大会」を、メタバース内で開催するという。

12月27日から開催されているBaidu Createの会場HP

12月27日からは、独自に開発したメタバースのも開始。スマートフォンなどの専用アプリで、アバター同士の交流や観光を楽しむことができる。最大で10万人が同時に利用可能という。

バイドゥが公開したメタバース

■メタバース関連の商標申請が急増

このように、中国国内で巨大企業がメタバース関連プロジェクトを進めた結果か、メタバース関連企業や各ビジネスプロジェクトも急増傾向にある。中国国内の各種統計情報を調査公開している「前瞻产业研究院(Qianzhan research)」によると、「元宇宙」の商標の申請も増加。21年7月以前には商標数は中国全土で25件ほどであったが、8月には申請数だけでも50件、特にアリババがメタバースへの進出を宣言した9月には344件と申請数が激増している。アリババ社も8月には【淘宝元宇宙-Taobao Metaverse】【Alibaba Metaverse-阿里元宇宙】といった商標を申請している。

アリババが100%出資して成立したメタバース企業「元境先生」。Mr メタバースとも訳すことのできる同社だが、具体的な事業計画はまだ明かされていない

中国の2大巨頭で先行しているのは「テンセント元宇宙」

中国デジタル 企業の2大巨頭としてぶつかることの多いアリババとテンセントだが、メタバース領域においては、テンセントの先行が目立つ印象だ。筆者の分析では、 テンセント の企業としてのありようが、アリババと大きく異なることが原因のように感じられる。

テンセントの売り上げ構成は、ゲーム分野が非常に大きな割合を占めている。テンセントは、コミュニケーションアプリ「微信(Wechat)」の開発によって、いち早く中国若年層のモバイルユーザーへの浸透を進めた。20年にはゲーム分野での営業売り上げが1561億元に達している。

各種公式資料を基に筆者作成

現在メタバース領域においてはゲーム産業を中心とした成長が著しく、テンセントは積極的な投資を継続してきた。その一方でアリババは、本業はEC領域だ。

テンセントグループの代表である馬化騰(Pony Ma)氏は自社のテンセント系列のメディアを通じて、メタバース領域へ全面的に進出すると宣言している。9月の腾讯网(Tencent Web)の報道によると、馬氏は2018年から「全真互聯網ーーPerfection Internet」を提唱しており、メタバースの成長を早期から予測していたとのことだ。

次回は、よりミクロな視点で進む中国メタバース企業や試み、そして一般社会での反応を紹介する。