メタバース普及のカギ「VR/ARデバイス」 進化の現状は?

2021/12/17

Facebookは10月末、社名を「Meta(メタ)」に刷新した。

最近メディアでバズワードとなっている「メタバース」に対するコミットメントを強めるのが狙いのようだ。

メタバースとは仮想共有空間のこと。そのイメージに近いとされるのが、映画「レディ・プレイヤー1」に登場する仮想世界だ。

現時点では、ゲームの文脈でメタバース関連の議論が多く見られるが、Metaのザッカーバーグ氏が描くメタバースのビジョンは、ゲームを超えたところにある。

■モバイルインターネットの次にやってくる「メタバース」

ザッカーバーグ氏はThe Vergeの取材で、メタバースとはモバイルインターネットの進化系であると語っている

1990年代に広がり始めたインターネットは、固定されたパソコンから様々な情報にアクセスできるようになった。しかし、インターネットへのアクセスは、パソコンが設置されている場所からのみ可能であり、物理的な制約があった状況だ。

その制約を取り払ったのがモバイルインターネット。スマートフォンを持ち歩くことで、その制約をほとんど取り払い、どこからでもインターネットを利用できるようになった。

ザッカーバーグ氏は、この状況がさらに発展した世界を「メタバース」と呼んでいる。

モバイルインターネットは場所に制約されず、ソーシャルメディアで友人・知人とつながり、情報を検索したり、音楽やゲームを楽しんだりすることを可能にした。メタバースは、こうした行為をより深いレベルで体験できる世界となるのだ。

Metaがイメージするメタバースの世界

たとえば、ソーシャルメディアでの友人・知人とのチャットは、メタバースの世界では、アバターを通じてあたかも、その場で話しているかのような感覚でできるようになる。

また、商品購入のための情報検索は、メタバース内の仮想ショップで3次元モデルを確認し、購入の可否を決定できるようになる。

音楽やゲームは、仮想世界のイベントにアバターとして参加する形になる。

このような仮想世界が構築されたとき、世界中の経済・社会・文化にどのような影響が出るのかは未知数である。だが、インターネットやモバイルインターネットが世界を大きく変えたように、メタバースも同等かそれ以上の影響力を持つのは間違いない。

ザッカーバーグ氏もこうした未来を描いているはずだ。

■軽量を追求したHTCの「VRメガネ」

このメタバースがいつ登場し一般に普及するのか、その時期を予想するのは難しい。

しかし、パソコンの普及がインターネット時代を築き、スマホの普及がモバイルインターネット時代を構築したことを鑑みると、メタバース実現には関連するハードウェアの普及がカギになると考えることができる。

Metaが過去にOculusを買収し、VR事業に多大な投資を行ってきたことがその証左となる。

カギとなるハードウェアの1つがバーチャルリアリティ(VR)ヘッドセットやVRメガネだ。

もちろん、メタバースはVRテクノロジーに限定されるものではないが、メタバースの世界を最も深く・強く体験できるテクノロジーがVRであり、他の分野に比べ関連度/重要度が高い領域といえるのだ。

VRテクノロジーの現在地を知り、この先の展開を予想することで、メタバースの大まかな動向はつかめるかもしれない。

VRテクノロジーの現在地は、Oculusの最新モデル「Quest 2」を見れば知ることができるだろう。

Quest 2のプロモーションビデオの1シーン

Quest 2から分かるのは、VRがスマホのように世界的に普及するには、まだ時間を要するであろうということ。

最も大きな課題は、VRヘッドセットのサイズと重量だ。スマホのように日常で気軽に利用するには大きすぎるのだ。

画質はそこそこ満足できるものだが、サイズが大きく、持ち歩いたり、家で毎日利用しようという動機が起こらないのである。筆者のQuest 2もホコリをかぶっている。

普及させるには、画質を維持/改善しつつ、サイズ・重量を小さくすることが求められる。メタバースへの関心が高まる中、VR企業各社はこの弱点を克服するために、様々な試行錯誤を続けている。

台湾のスマホメーカーとして知られるHTCが11月から販売を始めたVR端末「VIVE Flow」は、VRテクノロジーの一歩前進を示すものといえる。Quest 2の重量は約500グラム。一方、HTCのVIVE Flowは、わずか189グラムなのだ。

The Vive Flow ウェブサイト

携帯性や装着性が優先された軽量化モデルで、ヘッドセットといういうよりは、VRメガネと呼べるような形をしたハードウェア。HTC社は、同モデルのローンチ時に専用のVRアプリ100個を同時にリリース、また2021年末までに利用できるアプリ数を150個に増やす計画という。

大幅に軽量化されたという点では、普及の可能性を示すモデルだが、視野角や利用できるアプリ数などにおいて軽量化にともなうトレードオフもいくつか存在しており、市場がどのような判断を下すのか観察する必要はある。

■Appleの参戦で加速しそうなVR・AR開発

MetaもQuest 2に続くVRデバイスの開発を急いでいる。

10月末のMetaのテックイベントで「Project Cambria」というハイエンドVR・ARデバイスの存在が明らかにされたばかりだ。

ザッカーバーグ氏によると、同デバイスは「完全に新しい」高解像度の映像を視聴できるVR・ARデバイスで、2022年のリリースを目指すという。

Project Cambria

見た目はVRヘッドセットであるが、カメラが捉えた外部映像をヘッドセットでリアルタイム再生し、そこに3Dオブジェクトを投影することでARとしても機能するモデルのようだ。

MetaはもともとFacebookというSNS事業を中核としてきた企業、ハードウェアの販売力は弱いといわれている。

もし、ハードウェア販売に強いテック企業がVR・AR領域に参戦するとなると、様相は大きく変わるはず。実際、フェイスブックを凌ぐ世界的な大企業が水面下で動いている。

米メディアThe Informationが報じた情報筋の話によると、Appleが2022〜23年頃にVR・ARデバイスをリリースする可能性があるというのだ。

The Informationによると、デバイスはヘッドセット型とメガネ型の2種類。ヘッドセットは、フェイスブックの「Project Cambria」と同様に、VRヘッドセットとして機能するだけでなく、外部映像のリアルタイム再生によりARとしても機能するモデルと報じられている。

主力の「iPhone」や「iPad」でモバイルインターネット時代の構築に寄与してきたApple。次のメタバース時代においても、やはりキープレーヤーとなる可能性は大きいのではないだろうか。

MetaやAppleだけでなく、GAFAMの他の企業も今後メタバース関連の動きを加速してくるかもしれない。