仮想通貨禁止もブロックチェーン技術は推進 テンセントは独自プラットフォーム  中国NFT動向(1)

2021/11/14
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モバイルペイメントの全国的な一般化、マイクロファイナンスをはじめとするフィンテックサービスの消費者層への普及など、中国のデジタル化の進展はすでに日本でも大きく知られている。

アリババやテンセントをはじめとする巨大プラットフォーマーがデジタルエコシステムを推進する中、仮想通貨の取引が行政命令によって制限されるなど、日本とは大きくことなるエコシステムが中国では成長してきた。

日進月歩で新しい概念が生まれるデジタルの領域の中で、2021年に急速に注目を集めつつあるNFT。本記事では中国デジタルエコシステムの中の、現在の立ち位置について紹介する。

■仮想通貨は禁止も、ブロックチェーン技術には積極的

2013年ごろから中国当局は、暗号資産に関して規制を強めてきた。2021年9月には仮想通貨のマイニングのみならず取引自体も禁止されており、世界市場とは異なる歩みを進めている。

仮想通貨を制限する一方で、政府は通貨の完全デジタル化を進めるデジタル人民元の導入を進めている。ブロックチェーン技術そのものの導入には大いに積極的だ。

2021年3月31日、中国国営放送の中央電視台により、NFTの概略とその成長が報道された。もともと中国国内のブロックチェーンを扱う専門誌では、細々とNFTについて取り上げられることはあった。しかし2021年10月現在では、多くの経済誌、例えば第一財経や、中国版Wall Street Journal などで連日報道が相次いでいる。

中国最大の動画投稿プラットフォームであり、文化の発信基地であるbilibili動画でも、多くのチャンネルでNFTに取り扱っている。「1つのNFTコンテンツ購入代金が深圳の不動産価格に匹敵している現状」を説明したものは、再生回数280万回を突破している。

bilibiliでNFTに関する動画を検索すると、解説動画が中心である一方、投機を促す内容など多くの動画がヒットする。すでに一部の層からは、大きな注目を集めつつあるといえる(筆者キャプチャ)

NFTの中国語名称は、「非同质化代币」である。「代币」という字面と中国語のNFTの定義が、仮想通貨(中国名: 加密货币)と似ているため、仮想通貨の一種であるという誤認識が一時期広まっていた。しかし現在は、中国国内でのNFT関連報道が広まるにつれ、徐々に正しい認識が広まりつつあるようだ。

■テンセントのNFTコンテンツは2001枚に8万人超が殺到

では、中国のデジタル大手はNFTをどのように取り扱っているのだろうか。

中国におけるデジタルエコシステムの多くは、中国本土企業のプラットフォーム上に構築されている。中でも広範囲でデジタルサービスを提供しているテンセントとアリババの影響力は絶大であり、モバイルペイメント領域では同2社が決済金額の9割以上を占めている。

2021年8月、テンセントグループ旗下の音楽配信プラットフォーム、QQミュージック(中国名:QQ音乐)で発売されたNFTコンテンツは中国国内のメディアを大いににぎわせた。

販売されたコンテンツは「和尚デビュー20周年記念NFTレコードディスク(中国名:和尚20周年纪念黑胶NFT)」という名称で、中国のネット文化黎明期にFlashムービーと掛け合わせて演奏されたミュージックビデオ内の楽曲を中心としている。アーテイストは胡彦斌氏であり、20年以上前からのファン層のみならず、若いファン層の獲得を目指して、今回NFTという新しい分野の概念を組み合わせて、NFTコンテンツを発売したようだ。

20年前の流行曲が、2021年にNFTとして販売された。QQミュージックより引用

限定2001枚の販売であった同NFTだが、予約申し込みは8万名近くにも及び、最終的に抽選会が開催された。今回の楽曲の販売では、NFTコンテンツであるという点が随所で強調されている。QQミュージックの販売画面でもNFTの概念、特に「あなたの為の楽曲」として「コンテンツの独自性」と「複製されにくい」という点を消費者に強く呼びかけているようだ。

■独自NFTプラットフォーム「幻核」に集まる注目

多くの話題となったQQミュージックのNFT販売だが、テンセントはQQミュージックのみならず、独自のNFTコンテンツを取り扱うプラットフォーム「幻核」を8月から運営。iOS、アンドロイドOS版双方でリリースされたアプリである幻核は、中国の若手イラストレーター合作の漫画画集や、中国の少数民族の文化や生活を紹介した写真集といったNFTコンテンツを販売しており、どちらのコンテンツも正式販売からわずか数秒で完売するなど、中国国内における注目度の高まりを反映している。

テンセントグループは2021年からグループの再編成を進めており、NFTはPlatform and Content Group(中国語名: 腾讯平台与内容事业群)の事業領域とされる。

筆者も実際にアプリをダウンロードしてみたが、中国国内の身分証が使用にあたり必須で、まだ中国国外にユーザーの本格的な利用は難しいといえるだろう。NFTコンテンツの購入にあたっては「人民元に紐づいたモバイルペイメントのみが有効」という声明文が、幻核プラットフォームの成立時に発表されている。

なお、 幻核ユーザーになると購入したNFTの展示スペースが割り当てられ、バーチャル上の空間に自身のNFTを飾ることが可能になる。

幻核ユーザー内に割り当てられた、NFTコンテンツ展示室。NFTコンテンツを鑑賞できるユーザー体験機会が備えられている。

中国国内におけるNFT産業は、まさに今黎明期を迎えつつあるといえる。続編では、テンセントと並ぶ中国IT企業二大巨頭のアリババに加え、TikTokを擁するByteDanceなどの他のプラットフォーマーの動きについて解説していく。