【基礎から解説】Web3.0の「ブロックチェーン技術」とは何か?

2021/10/31
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近年、Web3.0に欠かせない技術として挙げられる「ブロックチェーン技術」。TikTokや楽天、GMOなどの企業が参入し話題になっている「NFT」や、「ビットコイン」「イーサリアム」をはじめとする暗号資産(仮想通貨)にはすべてこの「ブロックチェーン」が利用されている。本記事では、「ブロックチェーン」とはどのような技術で、どういったサービスに使われているのかを解説する。

  1. ブロックチェーンとは何か
    1-1. ブロックチェーンの誕生
    1-2. ビットコインが実現したこと
  2. ブロックチェーンの仕組み
    2-1. 基本的な構造は「分散型台帳」
    2-2. 情報の信頼性を担保するための技術・仕組み
  3. ブロックチェーンの特徴
  4. ブロックチェーンはどのように活用されているか
    4-1. 金融領域
    4-2. 金融以外の領域
  5. まとめ

1. ブロックチェーン技術とは何か

1-1. ブロックチェーンの誕生

まず、そもそもブロックチェーンがいつどのように生まれたのかを見てみよう。

始まりは、2008年10月にサトシ・ナカモト (Satoshi Nakamoto) と名乗る匿名の人物(団体、という説もある)が書いた「ビットコイン:P2P 電子マネーシステム」という1本の論文だった。論文はこの論文によりビットコインという新しい通貨のあり方が提案され、同時にその基幹技術であるブロックチェーンが誕生したとされている。

このビットコインの技術を応用して、「イーサリアム」「リップル」などの他の暗号資産(仮想通貨)や近年話題の「NFT」など、多くの新しい取り組みが始まった。こうした、ビットコインやその派生サービスを支える技術・仕組みが「ブロックチェーン」と呼ばれている。

尚、「ブロックチェーン」という言葉はビットコイン登場時には使われておらず、後からビットコインの基幹技術を「ブロックチェーン」と呼ぶようになった。

ブロックチェーンの基本的な仕組みを理解するために、まずビットコインは何を目的として作られたのかを見ていく。

1-2. ビットコインが実現したこと

ビットコインは、「銀行などの管理者がいなくても成立するインターネット上の通貨」の実現を目的としている。

これは普通の電子マネーとどう違うのだろうか。普段我々が使っている電子マネー、たとえばアプリで銀行の振込を行ったり、「PayPay」「LINEPay」などで買い物をしたりお金を送る際には、「三菱UFJ銀行」「三井住友銀行」や「PayPay」「LINEPay」といった企業がお金の移し替えや残高を記録し管理している。

ビットコインでは、そのような中央で管理する企業なしに、お金の移し替えや残高の記録・管理が成立する。これにより、国家や企業に依存することなく金融サービスを受けられたり、国際送金が安く速く行えるようになる。

インターネット上のお金で、しかも管理者がいないとなれば、簡単に偽造したり攻撃したりできてしまうのではと思うかもしれない。まさに、それを防ぐ仕組みがブロックチェーンである。次の章では、ブロックチェーンが実際にどのような技術で偽造や攻撃を防いでいるのかを見ていく。

2. ブロックチェーンの仕組み

2-1. 基本的な構造は「分散型台帳」

ブロックチェーンは、「分散型台帳」とも呼ばれる。「台帳」とは、過去の売買取引が記録されている帳簿のことだ。ブロックチェーンでは、ネットワークへの参加者全員が、自分を含む参加者すべての過去の取引履歴を記載した同じ台帳を持ち共有している

たとえば、花子・太郎・次郎の3人がいるとしよう。花子が太郎に1ビットコイン(BTC)を送金したとき、花子はそれを次郎さん含めた3人全員に宣言し、皆が手元で「花子→太郎:1BTCを送金」と記録する。花子・太郎・次郎の全員が同じ記録を持ち、送金や取引の度に履歴を追加していくことで、管理者がいなくてもお金の移動や残高の記録が可能となる。

ただし、誰も管理者がいないため、誰かが嘘をついたり、うっかり間違った情報を保管してしまうことが起こりうる。それを防ぐのが、次に述べる技術や仕組みである。

2-2. 情報の信頼性を担保するための技術・仕組み

公開鍵/秘密鍵を用いた電子署名

太郎が不正な利益を得ようとして、花子の振りをして嘘をつき「花子が太郎に1BTCを送る」と宣言することがあってはならない。「公開鍵/秘密鍵を用いた電子署名」は、そうしたなりすましを防ぐための技術だ

参加者は、自分しか知らない「秘密鍵」と、秘密鍵から生成した「公開鍵」のペアを持っている。送金したいときには宣言を「秘密鍵」で署名し暗号化し、暗号化された文書と元の文書、公開鍵をセットで公開する。

たとえば花子が「太郎に1BTCを送る」という宣言をしたとき、太郎と次郎は、花子の公開鍵を用いて暗号化された方の文書が元通りに復号できるかを検証する。これにより、「この文書は間違いなく花子が署名したものであり、内容が改ざんされていない」ことを確認できる。

取引記録の連鎖

過去の記録を勝手に改ざんすることができないようにするため、ブロックチェーンでは、一定時間(ビットコインだと10分)ごとに、取引データをまとめてひとつのブロックにして確定させる。そのブロック同士を連鎖させることで、過去のブロック内容を改ざんすると、現在まですべてのブロック内容が変わってしまい、改ざんがすぐにバレる仕組みになっている。

具体的には、ハッシュ関数という暗号を用いて、ブロック内の情報を要約し、英数字の文字列(ハッシュ値)にする。ブロックを作成する際には、「そのブロック内のすべての取引履歴」に加えて、「前のブロックの要約であるハッシュ値」を合わせてハッシュ関数にかけ、ハッシュ値を生成する。これにより、

・ブロック1のハッシュ値:ブロック1の取引
・ブロック2のハッシュ値:ブロック1のハッシュ値+ブロック2の取引
・ブロック3のハッシュ値:ブロック2のハッシュ値(=ブロック1のハッシュ値+ブロック2の取引)+ブロック3の取引
・ブロック4のハッシュ値:ブロック3のハッシュ値(=ブロック2のハッシュ値+ブロック3の取引)+ブロック4の取引の要約…

というように、あるブロックにはそれ以前のブロックのすべての情報が含まれ、ブロック同士が連鎖するようになっている。

これにより、過去のブロックを改ざんしようとすると、そこから現在に至るまですべてのブロックのハッシュ値が変わってしまうので、すぐにバレてしまう。このブロックの連鎖が「ブロックチェーン」という呼称の由来である。

マイニング

とはいえ、現在に至るまですべてのブロックのハッシュ値を計算し直すこと自体は難しくないため、これだけでは改ざんを防ぐのに不十分である。そのため、計算がもっと難しくなるように、マイニングという仕組みが設けられている。

ビットコインでは「プルーフ・オブ・ワーク(Proof of Work)」と呼ばれる方法が採られている。これは、「ブロックの要約を算出するために、単純計算を非常にたくさん、何千兆回、何景回と繰り返す必要がある」というものだ。

具体的には、ブロックのハッシュ値を生成し取引を確定させる際に、①前のブロックのハッシュ値②このブロックに入れる取引履歴に加え、③ナンスというパラメータが必要となる。ブロックのハッシュ値は、「先頭に0が19個並ばなければいけない」というような厳しい制約がかけられており、ブロックを生成し取引を確定させるにはその厳しい条件を満たすようなナンスを見つける必要がある。

ナンスを見つけるためには、とにかく総当たり式で計算を行うほかない。そのため取引記録の改ざんを行おうとすると、計算するための膨大なコンピュータパワーと電気代が必要となる。

またナンスを一番先に見つけた人は、新規発行分のビットコインを手に入れることができる。2021年11月現在、ひとつのブロック生成に成功すると6.25BTC(約4,375万円)の報酬が配布される。このように、ブロックを生成し取引を確定させ、その報酬として新規発行コインを得ることを、鉱石の採掘になぞらえて「マイニング」と呼ぶ。改ざんができるほどのコンピュータパワーを持っているならば、マイニングに参加し、ビットコインを得る方が合理的といえる。

分岐への対応

マイニングの仕組みにより改ざんを防ぐことができたとしても、世界各地でマイナーが計算競争を繰り広げているため、たまたま同時にブロックが2つ生成されるなどチェーンが分岐してしまうことも起こりうる。

そういうときには、「いったんブロックは2つとも追加しておいて、その後にチェーンが長く続いた方を正しいとみなす」方式が採られている。マイニング参加者は、ブロックを作る際、どのブロックの次に繋げるかを決めてから採掘を行うため、多くの参加者が賛成しているブロックほど長く続いていくこととなる。

仮に悪意のある参加者が不正なブロックを作り、そこからチェーンを伸ばそうとすると、他の善意のマイナーに勝ち続けなければならない。それにはビットコインのプルーフ・オブ・ワーク方式だと全参加者の51%以上の計算力が必要になるが、世界中でマイナーが途方もない計算力をかけて参加している現在、実質的に不可能である。

3. ブロックチェーンの特徴

ここまで、ブロックチェーンを支える技術や仕組みを概観してきた。これらにより、ブロックチェーンは次のような特徴を持つ。

記録の改ざん・巻き戻しが不可能

取引データは時系列順に格納されており、後から改ざんすることができない。

公開データベース

すべての取引記録がインターネット上で公開されており、誰でも後から遡って確認することができる。

管理者のいない分散システム

データの記録や移転、管理、システムの維持を特定のサーバや企業に依存しないため、障害やエラーに強い。

こうした特徴があるため、ブロックチェーンはビットコインのような電子通貨以外の用途にも広く使うことができる。次章では、実際にどのようなサービスや利用方法があるのかについて解説する。

4. ブロックチェーンはどのように活用されているか

4-1. 金融領域

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電子通貨

ブロックチェーンを利用した電子通貨を用いることで、送金が安く速くできるようになる。たとえば銀行を通じて海外に送金する場合、手数料が数千円~1万円、到着するのに2日~1週間程度かかる。一方で、「リップル」や「ライトコイン」などの暗号資産(仮想通貨)を利用すれば、手数料は高くても10円程度、かかる時間は数分となる。

また、ビットコインのように、国家や企業に依存しない通貨を作ることも可能だ。

貸借契約や債券

通貨のみならず、貸借や債券など、幅広い金融サービスの電子化・分散化も実現されている。

これには、「スマートコントラクト」という仕組みが用いられる。ブロックチェーンに過去の記録だけでなく、条件と結果を書いておき、条件が達成されたときに自動執行する仕組みだ。たとえば、「1,000ドルを借り、期日までに返せなかった場合、担保の1イーサリアム(ETH)を差し出す」といった契約をブロックチェーンに記載すると同時にETHを預けておき、返せなかった場合にはETHが自動で没収されるといったことが可能である。

例)
MakerDAO:2014年に設立されたレンディングプラットフォーム。ユーザーはイーサリアムを預け入れることで、ドルに連動したコイン「DAI」を借りることができる。

・サンタンデール銀行の債券発行:2019年9月、スペインの大手銀行であるサンタンデール銀行が、イーサリアム上で2千万ドル(約21億6,000万円)の債券を発行。従来アナログな作業が多かった債券決済やクーポンの支払いをデジタル化する試みである。

ギャンブルや保険

スマートコントラクトを用いると、ギャンブルや保険などの予測市場も可能となる。たとえば「2021年12月31日時点でイーサリアムの価格が5000ドル以上である」という予想を立て、それに賛成する人と反対する人が集まってお金を預け入れておく。当日のイーサリアム価格が5000ドルを超えていたら、予想が外れた人から掛け金を没収し、当たった人に配布するといったことを自動で行う。

こうした仕組みは保険にも応用できる。たとえば農家が「今年に自分の農場がある地域で干ばつが起こる」方に賭けておけば、仮に干ばつが起こり農作物収入が減ったとしても、賭けには勝つのでお金が入る。予測市場はこのように、保険の役割を果たすこともできる。

ブロックチェーンを利用することで、低手数料かつ国境を超えた多様なテーマの予測市場が実現できる。

例)
・Augur:2018年7月にリリースされた、分散型予測市場プラットフォーム。ユーザーは自分で予測テーマを立てたり、他の人が立てたテーマについて掛け金をかけて予想し、当たれば配当を得ることができる。

4-2. 金融以外の領域

「情報の改ざんができず、不特定多数が参加しても安全に記録ができる」というブロックチェーンの特徴は、金融以外のサービスにも応用できる。

サプライチェーン

小売や製造、流通といった分野では、商品の流通や出所を記録し、「偽物でない」といったデジタル鑑定書をつけたり、食品偽装を防ぐために生産や流通の過程を開示することができる。また「NFT」(非代替性トークン)では、データにデジタル鑑定書を付けることで、アートやゲームアイテムとしてデータを扱うことができるようになる。

例)
・ウォルマートの食品トレーサビリティ実証実験:2016年、ウォルマートとIBMが提携して行った、ブロックチェーンを利用して中国で豚肉の流通に関する情報を記録・共有する取り組み。畜産農家、処理業者、物流業者、小売業者間で各プロセスの食品情報をブロックチェーン上に記録し共有することで、密輸や偽装を従来よりも簡単に防ぐことができる。

・LVMHの「AURA」:2019年にLVMH・マイクロソフト・ブロックチェーン開発企業のConsenSysが提携してリリースした、原材料の調達や製造など商品が店頭に並ぶまでの記録を消費者が追跡できるプラットフォーム。消費者はアプリでQRコードを読み取ることで情報を確認できる。

投票

選挙や投票はアナログな仕組みで運営されることが多いが、不正ができず、透明性が高いというブロックチェーンの特徴は、電子投票にも活かすことができる。

また、スマートコントラクトを利用すれば、事前にコードを書いておいて投票結果に従って自動執行したり、1票を分割して複数候補に投票するといった新しい投票方法を構築することも可能だ。

例)
・米ユタ州の大統領選挙:2020年の米大統領選で、ユタ州ではブロックチェーンを用いた電子投票が実施された。有権者はモバイル投票アプリ「Voatz」を通じて本人確認から投票までを行う。投票内容は暗号化されてブロックチェーンに記録され、開票の際には自分の票が集計されたという事実もブロックチェーンに刻まれる。

5. まとめ

ここまでブロックチェーンの仕組みと用途について解説してきた。まとめると、ブロックチェーンは、管理者のいないインターネット通貨であるビットコインにより誕生した。複数の暗号技術や仕組みが用いられており、「記録の改ざん・巻き戻しが不可能」「公開データベース」「管理者のいない分散システム」といった特徴を持っている。

こうした特徴を活かし、現在は、通貨としてだけではなく、貸し借りのような契約や、保険・ギャンブル、サプライチェーン、投票など様々な分野で利用されている。

こうしたユニークな仕組みであるブロックチェーンだが、取引処理能力はまだ低く、ネットワークが混雑すると処理が遅くなったり、手数料が高騰したりするという問題もある。ブロックチェーンの技術はまだ発展途上であり、将来その真価が十分発揮できるようになれば、私たちの生活を支えるインフラとなっていく可能性も大いにあるだろう。