エルメスが初のNFT商標裁判で勝訴、バーキン模したクリエーターに賠償命令

2023/02/10

仏高級ブランドのエルメスが、人気バッグ「バーキン」を模したNFT「メタバーキンズ」を作成、販売していた米クリエーターのMason Rothschild氏を商標権侵害で訴えていた裁判で、ニューヨーク連邦地裁の陪審は2月8日、Rothschild氏に13万3000ドル(約1700万円)の損害賠償を支払うよう命じた。表現の自由を保障する米憲法修正第1条で保護されるというRothschild氏の主張は却下された。

NFTが知的財産法の下でどのように扱われるかを争った初の裁判。芸術と商品との境界をどこで線引きをするかで、NFT関係者だけでなく司法関係者の間でも注目を集めていた。

メタバーキンズは、バーキンが革の代わりにカラフルな漫画のような毛皮で覆われたデザインで、Rothschild氏が2021年後半に作成し販売。当初の価格は450ドル(約6万円)程度だったが、SNSなどでの大規模な宣伝を行い、数万ドルで転売されるほど高騰している。エルメス側が提出した文書によると、メタバーキンズは110万ドル(約1億4000万円)以上を売り上げているという。

エルメスは22年1月、メタバーキンズがエルメスの公認のプロジェクトだと一部メディアで誤って報道されたことを受けて提訴。エルメスはWeb3参入を進めており、NFTや暗号資産などの商標出願を進めていることが同年9月に明らかになっている。裁判ではメタバーキンズをエルメスの正規プロジェクトだと誤解するユーザーの割合が潜在的ユーザーの約2割にのぼり、商機への侵害も論点になった。

一方でRothschild氏は、メタバーキンズは憲法修正第1条で保護される「芸術作品」であり「(米ポップアート界の巨匠)アンディ・ウォーホルによる『キャンベルスープの缶』のシルクスクリーンと何ら変わりがない」と主張。「戦い続けなければ、これからも(芸術を認められないことが)起こり続けるだろう。戦いはまだ終わっていない」と判決を批判し、同氏の弁護士のRhett Millsaps氏は「アーティストが自分の芸術からお金を稼ぐことは合法。メタバーキンズは、社会がステータスシンボルにどのような価値を置くかを検証する芸術的実験である」と述べている。

テクノロジーと知的財産を専門とする米弁護士のEmily Poler氏によると、メタバーキンズに含まれる商標は、陪審員や一般人に見分けがつきにくく「アートワークが憲法修正第1条で保護される余地はまだある」と指摘している。

米憲法修正第1条に基づく芸術保護は、1989年のRogers v. Grimaldi事件で下された基準による「Rogersテスト」で判断され、芸術的関連性の最低限のレベルを満たし、消費者を明確に誤解させない限り、芸術家が商標を許可なく使用することを認めている。メタバーキンズは同基準を満たさず、NFTは商標法の対象となるとの判断に、NFTアーティストへの“冷や水”にもなりかねないとの声もあがっている。