【NFTトレンディ】FTXは「完全な失敗」経営破綻へ突き進んだ内情とは

2022/11/28

NFTトレンディでは、NFTやブロックチェーンに関連する注目トピックを取り上げて解説する。今週は、暗号資産業界2位の取引所、FTXトレーディング破綻の続報。調査で明らかになった企業統治や財務情報などの動きを紹介する。

【目次】

  1. FTXの内情:企業統治の完全な失敗、ずさんな財務管理
  2. FTX Japan:良好な財務状況で、事業売却の見込み
  3. バハマ当局は独自に資産保護、ハッキング事件にも関係か
  4. 創業者のSBF氏の行動にも疑問符
  5. Binanceは業界回復基金を設立、保有資産の公開証明も開始

日本時間11月11日、暗号資産(仮想通貨)取引所のFTXが、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請した。投資事業を行う親会社のAlameda Research(アラメダ・リサーチ)の損失を、FTXの顧客の資金で補てんし使い込んだとみられ、少なくとも数千億円の資金不足に陥っている。破産申請から2週間で明らかになった内情と、破綻がもたらした影響はどのようなものだったのか。

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1.FTXの内情:企業統治の完全な失敗、ずさんな財務管理

17日に米東部デラウェア州の裁判所に提出された調査報告書では、FTXの内部統治が機能していなかったことが明らかになった。FTX創業者のサム・バンクマン・フリード(SBF)氏に代わりFTXの新しい最高経営責任者(CEO)に任命されたジョン・レイ氏は、エンロン事件をはじめ40年以上事業再生に携わってきた人物だが、報告書で「これほどまでに企業統治が失敗し、信頼できる財務情報が欠けている状態は見たことがない」と述べている。

【報告書で明らかになった企業統治・財務管理の状況】

●SBF氏が当初55億ドル(約7700億円)あると述べていたFTXの暗号資産は、たったの65万9000ドル(約9200万円)しかなかった
●現金の一元的な管理がされておらず、銀行口座一覧のリストすらなかった
●支払い管理のシステムがなく、経費の申請はオンラインチャットで行われ、絵文字で承認が行われていた
●経費の一部は従業員の家や身の回りの品を購入するために使われていた
●安全でないメールグループアカウントで秘密鍵や重要データが扱われていた
●従業員の完全なリストが残っていない

レイ氏は「最もまん延している失敗の一つは、意思決定の記録の欠如である」と指摘している。前CEOのSBF氏は短期間で自動削除されるメッセージアプリをよく使用し、従業員にも利用を推奨していたという。

またFTXの自動清算システムでは、Alamedaのポジションのみ清算されないように秘密裡に除外する仕組みがあったことも報告された。清算は顧客が一定の損失を出した際に強制的にポジションが決済される仕組みで、顧客が莫大な損失を被らないようにする目的で行われる。Alamedaの清算を除外しないことで、損失が無制限に膨らむ可能性を放置した状態になっていたと思われる。

2.FTX Japan:良好な財務状況で、事業売却の見込み

日本法人のFTX Japanをはじめ当局の監視下にあったFTXの複数の子会社は「優良事業」として売却される見込みだ。事業が売却されれば、FTX Japanの顧客資産がFTX本体の債務とは切り離される。資金が顧客に返却される可能性も高くなる。

FTX Japanは21日、暗号資産の管理状況を報告。暗号資産は同社のコールドウォレット、法定通貨は信託口座で「問題なく保全されている」とのこと。

純資産額は約100億円、現預金は約178億円に上る。優良な財務状況から、投資銀行経由での買収打診があったとみられている。

3.バハマ当局は独自に資産保護、ハッキング事件にも関係か

FTX子会社のFTX Digital Marets(FTX DM)が拠点を置いていたバハマ当局は、独自に同国内の顧客資産を保護する動きをみせている。

バハマ証券委員会は17日に発表した声明の中で「11月12日にFTX DMの全資産を、委員会の管理するウォレットに転送する措置を取った」とあかした

詳細はまだ明らかではないが、同日にはFTXへの不正アクセスにより資産が盗まれるハッキング事件が発生している。この事件にバハマ当局が関係している可能性が指摘されている。FTXの破産関連報告書では「チャプター11が申請された後に、FTXのデジタル資産を得る目的でバハマ政府がシステムへの不正アクセスを指示したとの、信頼できる証拠がある」と述べられている。

FTX DMはチャプター11が申請された関連会社の中には含まれておらず、15日に別途、米連邦破産法第15条(チャプター15)の申請を行っている。チャプター15は「国際倒産」の申請で、米国籍以外の企業が米国内の資産を保護するための手続きだ。

チャプター15の別途申請について、FTXの破産弁護士は「FTXグループ全体の債務者からFTX DMのみを分断しようとする試みだ」と懸念を示し、訴訟をニューヨークの裁判所からデラウェア州裁判所に移管するよう求めているという。

4.創業者のSBF氏の行動にも疑問符

また、米紙ウォールストリート・ジャーナルが報じたところによれば、SBF氏は自社株の個人保有分の早期売却を大規模に行っていた。2021年10月にFTXは4億2000万ドル(約590億円)の資金を調達したが、その約4分の3の3億ドル(約420億円)の個人保有株を売却。SBF氏は当時「(競合でありFTXの初期投資家であった)Binance(バイナンス)が保有するFTX株を買い戻すために立て替えた費用を払い戻すため」と投資家に話していたという。

また、AlamedaからSBF氏個人の保有する会社に10億ドル(約1400億円)を貸し付けていたことも、上述の裁判所への報告書で明らかになっている。

SBF氏はFTX破綻までは成功者として知られ、世界のビリオネアランキング500位にも入っていた。しかし投資家の利益阻害となる自社株売却を行ったり、莫大な金額をAlamedaから個人で借りていたりと、従来のクリーンなイメージとは異なる側面も露呈し始めている。

5.Binanceは業界再生基金を設立、保有資産の公開証明も開始

取引高業界トップの暗号資産取引所のBinanceは14日、FTXトレーディング破綻による悪影響の連鎖を減らすために「業界再生基金」を設立する意向を表明。25日に、FTXの破綻により資金難に陥った企業やプロジェクトを支援するファンド「Industry Recovery Initiative(IRI)」の設立を発表している。

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またBinanceはユーザーの資金が問題なく保管されていることを示すため、同日に「プルーフ・オブ・リザーブ(PoR) システム」もリリースした。ユーザー資金の残高と同等の準備金がブロックチェーン上にあることを証明する仕組みで、Binanceだけでなく、Kraken、Huobi、OKXといった大手取引所が同システムに則り、資産の証明を公開している。