【NFTトレンディ】FTXの倒産はどのようにして起きたか
NFTトレンディでは、NFTやブロックチェーンに関連する注目トピックを取り上げて解説する。今週は、暗号資産業界2位の規模を誇った取引所、FTXトレーディングの倒産事件について説明する。
【目次】
1.FTX、11月11日に破産申請へ
日本時間11月11日、暗号資産(仮想通貨)取引所のFTXトレーディングが破産申請を行った。同社と関連会社約130社について米連邦破産法第11条(チャプター11)の適用が申請されており、その中には日本法人のFTX Japanも含まれている。
FTXは、Sam Bankman-Fried(サム・バンクマン・フリード、以下SBF)氏が2019年に創業した、バハマを拠点とする暗号資産の取引所。多様な投資商品や「FTX Earn」という年利数%で資金を貸し出せるサービスなどで暗号資産の投資家から人気を得ており、近年では最大手取引所のBinance(バイナンス)に次ぐ取引高となっていた。またSBF氏個人も成功者として知られ、21年時点で「ブルームバーグ・ビリオネアインデックス」500位に入り、資産は2兆円以上と推定されていた。
英フィナンシャル・タイムズ紙によれば、FTXは破産前夜に89億ドル(約1兆2500億円)の負債に対して、およそ10分の1となる9億ドル(約1260億円)の流動資産しか保有していなかったという。顧客がFTXに預けていた資金がどの程度まで返却されるかは不透明だが、資金不足から悲観的な見解が多い。
資金が不足している理由についてロイター通信が、FTXは少なくとも40億ドル(約5600億円)もの資金を、投資事業を行う親会社のAlameda Research(アラメダ・リサーチ)に送金、その一部は顧客の資産であったと関係者が明かしたと報じている。Alamedaの投資による損失を、FTXの顧客資金で補てんしていたのではないかとみられる。
突然の倒産報告は、暗号資産業界に大きな衝撃をもたらした。FTXは22年1月にはシリーズCの資金調達を行い、320億ドル(約4兆5000億円)の評価額でソフトバンクなどから出資を受けていた。Alamedaも22年、運営が困難に陥った複数の暗号資産プロジェクトを救済買収しており、SBF氏の事業運営は絶好調に思われていた。
そんなFTXとAlamedaに、いったい何が起こったのか。
2.なぜFTは倒産したのか? 財務状況への懸念、Binanceとの戦い、取り付け騒ぎ
FTXとAlamedaをめぐる状況は、11月に入り急激に変化している。直接の引き金となったのは、2日に報じられたAlamedaの財務状況に関する米情報サイト「CoinDesk」のリーク記事と、7日のBinanceの最高経営責任者(CEO)、Changpeng Zhao氏によるツイートだ。
この1週間強で起きた関連する主要なできごとを、時系列でまとめた(13日時点)。
11月2日:CoinDeskのリーク記事がAlameda Researchの財務状況に懸念を示す
CoinDeskが、Alamedaの財務状況に関する文書を独自に入手し、資産のかなりの部分がFTXの発行する独自トークン「FTT」で構成されているとの記事を発表した。資産146億ドル(約2兆500億円)のうち、約36億6000万ドル(約5100億円)がFTT、21.6億ドル(約3000億円)がFTTの担保だという。
資産の大半がFTTだと、何がまずいのだろうか。FTTはFTXの株式とは異なり、裏付けのある資産ではない。FTXでの手数料優遇やエアドロップ、IEO(イニシャル・エクスチェンジ・オファリング。新規暗号資産の取引所への上場を指す、新規株式上場<IPO>のようなものを指す)へのアクセスといった使いみちの、優待券のようなものである。そのため
●子会社が発行している優待券でしかなく、価値がゼロになる可能性がある
●Alameda・FTXの保有量に比べてFTTの市場流動性が圧倒的に低く、即時の現金化が難しい
という2つの問題を抱えた資産を担保に多額の借り入れを行っている状態が問題視された。
この報告は話題を呼び、11月6日、AlamedaのCEOであるCaroline Elliso氏はTwitterで「その貸借対照表は当社の企業体の一部であり、そこには反映されていない100 億ドル以上の資産があります」と不安の声を収めようとした。
しかしこの時点では、まだほとんどの人は「FTXがまずい」とは考えておらず、騒ぎにまでは至っていなかった。
11月7日:BinanceのCEO、Changpeng Zhao(CZ)氏がFTTの売却予定を発表
BinanceのCEO、Changpeng Zhao(チャンポン・ジャオ、以下CZ)氏が「最近のニュースを受けてFTTを売却する予定だ」とTwitterで表明。Binanceは19年にFTXに出資しており、その際に得たFTXの株式を21年にFTTとドルに替えてエグジットしているため、多額のFTTを保有している。CZ氏は「市場に影響を与えないように数カ月かけて売却していく予定」と述べたが、この発表が結果的にFTT暴落の引き金となった。
なぜCZ氏はこのような市場に影響を与えかねないツイートを行ったのか。同氏はその理由を「FTT を清算することはリスク管理にすぎない。以前はサポートしていたが、陰で他の業界関係者に反対するロビー活動を行う人はサポートしない」と明かしている。
つまりFTXが、Binanceが不利になるようなロビー活動を行っていたとほのめかしたのだ。SBF氏は20年の米大統領選で、バイデン陣営に500万ドル(約7億円)以上を献金したことでも知られている。CZ氏がわざわざFTT売却を公にした背景には、BinanceとFTXの、暗号資産業界をめぐる“覇権争い”もあったのかもしれない。
11月8日:FTT暴落、FTXが顧客の出金を停止。取り付け騒ぎへ
CZ氏の売却意向をうけて、FTTの価格は20ドル前後から15ドル前後に暴落した。またFTXは、顧客の資金引き出しを停止。多くの投資家が一度に資金を引き出そうとしたため、手持ちの流動性資金が不足したとみられる。いわゆる取り付け騒ぎの事態となった。

日本法人のFTX Japanも9日、出金停止となった。
11月9日:BinanceがFTX買収の基本合意書を締結
CZ氏が「FTXが流動性不足で助けを求めてきた。BinanceはFTX買収に向けた拘束力のない基本合意書を結んだ。近日中にデューデリジェンスを行う予定」とツイート。FTXがBinanceに買収される可能性が生じた。「買収金額は1ドルではないか」とのうわさも流れた。
これを受けて、FTTの価格は3ドル付近まで下落。価値は2日間で約7分の1に暴落した。
詳細:Binance、同業大手FTXを買収へ 暗号資産取引業最大級のM&Aに
11月10日:BinanceがFTXの買収を取りやめ
Binanceが「企業デューデリジェンスの結果、FTXを買収しないことにした」と発表。CZ氏は「悲しい日だ、やってみたが」とコメントした。
同発表の後、SBF氏は「申し訳ありません。それが一番大きい。私は失敗した、もっとうまくやるべきだった」から始まる連投ツイートを投稿。その中では
●FTXは顧客の預金よりも高い資産、担保の市場価値を持っているが、流動性が不足している
●自身のレバレッジに関する感覚がずれていた。これは銀行関連アカウントの内部ラベル付けが不十分だったことが理由
●今はユーザーに対して正しくあることを一番に考えている。資金引き出しに応じるための流動性を得るため、できることを全てトライしている
●(おそらくCZ氏に向けて)よくやった、あなたの勝ちだ
といった内容が述べられた。この時点では、FTXは資金調達に向けて動いていたとみられる。
詳細:Binance、FTXの買収方針を1日で撤回「管理や支援能力を超える」
11月10~11日:顧客がさまざまな方法でFTXからの出金を試みる
Binanceによる買収が頓挫したことが分かり、暗号資産業界は阿鼻叫喚の様相を呈した。FTXからの出金は停止されており、投資家はどうにかして資金を引き出そうとした。
この間、下記のようなことが起きていた。
●暗号資産「トロン(TRX)」の創業者であるジャスティン・サン氏が、FTX内の顧客のTRXは出金できるように取り計らったため、FTX内のTRXが相場の10倍以上の値段で取引された
●バハマの規制当局により、FTXからバハマ在住者の資金のみ引き出し可能になった。そのためバハマ在住者のFTXアカウントが高値で取引されたとの情報が流れた
11月11日:FTX Japanが日本円の出金開始、全ての暗号資産がコールドウォレットで保管されていると発表
混乱の中で、FTX Japanは日本円の出金を開始した。暗号資産についてはまだ出金ができないが「暗号通貨出庫サービスの再開にも全力を挙げて取り組んでいます。お客様から預かっているすべての暗号通貨は、当社が管理するコールドウォレットで安全に管理されています」と発表し、FTX Japanユーザーに希望の光が見えた。
詳細:FTX経営危機が国内波及、出金停止で日本法人に行政処分
11月11日:FTXが破産申請
日本時間11日の午後11時ごろ、FTXは日本の民事再生法に相当する米連邦破産法第11条の申請を行った。
米ブルームバーグ通信は「FTXは最大80億ドル(約1兆1700億円)もの資金不足に直面している」と報道しており、顧客資金はほとんど返ってこないのではないかとみられている。
11月12日:FTXの資金がハッキングされた疑いが発生
FTXのものと思われるイーサリアムのアカウントから、疑わしい暗号資産の移動が確認された。FTXはSNS「Telegram」公式アカウントで「ハッキングされた。(マルウエアの一種の)『トロイの木馬』をダウンロードする可能性があるため、サイトにアクセスしないように」と呼びかけた。後の報告によるとハッキングされたのは資金の全額ではなく一部とのことだが、300億ドル(約4兆2000億円)以上が不正流出したとみられる。詳細な事実はまだ不明。
3.FTX倒産の教訓
FTX倒産を、どのように考えるといいのだろうか。
「これだから暗号資産は怖い」と感じる人も多いだろうが、この問題の本質は「顧客資金の不正な使い込み」である。「暗号資産だから起こった事件」ではなく、金融の領域で古典的に見られる犯罪だ。
暗号資産や暗号資産を利用した分散型金融(DeFi)はそもそも「FTXのような中央集権的な取引所を介することなくP2Pで取引やレンディングができるように」という分散の理念のもとで作られている。それにもかかわらず、結局のところ投資家や業界が「FTXなら大丈夫」とSBF氏やFTXを過剰に信頼して投資したり資金を預けたりしていたために、影響範囲が1兆円以上の莫大な金額になったと考えられる。
取引所などのサードパーティーを信じすぎることのリスクと、暗号資産やDeFiの本来の価値、自己資金を自分で管理することの重要性を、改めて認識させられる事件だったといえるのではないだろうか。
4.FTX倒産の影響
短期:連鎖倒産に注意
FTXの倒産によってまず最も注意すべきは、連鎖倒産が起こることだ。FTXが買収していた企業や他の取引所が、資金が引き出せなくなることやFTTが暴落することで大きな損失を被り、倒産する可能性がある。FTTだけでなく、FTXを中心とした経済圏を形成していたSolana(ソラナ)やAptos(アプトス)といったブロックチェーン周りのプロジェクトも全体的にトークン価格を下げており、影響が波及していく恐れもがある。
既に、6月にAlamedaに買収されていたDeFiレンディングサービス大手のBlockFiが、通常通りの運営が困難になったと発表。他にも大きく影響を受けたと発表したのは、Solana上でブロックチェーンゲーム「Star Atlas」を提供するATMTA社などだ。
また、米経済誌フォーブスは、FTXに出資していた米投資会社のセコイア・キャピタルや暗号資産投資会社のパラダイム、オンタリオ州教員年金基金などが損失を被るのではないかと報じている。
暗号資産取引所の連鎖倒産が起こる可能性もある。Binanceをはじめ、各取引所が自社資金の状態を公開し始めているが「中央集権的なサービスを信頼しすぎてはいけない」という今回の教訓を忘れないようにしたい。
中長期:暗号資産の規制強化や業界への信頼低下の可能性
FTXほどの大企業が顧客資金を流用していたことにより、世界的に暗号資産関連ビジネスの規制が強化される可能性がある。顧客資金の保全や監査など規制が強化されるべき側面もあるだろうが、むやみに消費者保護に走ると、ユーザーが従来のように暗号資産取引所を利用することは難しくなるかもしれない。
また暗号資産業界への信頼性が低下することも考えられる。暗号資産やWeb3企業に対するベンチャーキャピタルの出資は、21年には330億ドル(約4兆6000億円)と過去最高額に上っていたが、これまでより投資家の目が厳しくなる可能性は高い。業界の発展を遅らせるレベルにまで警戒感が高まることも、十分考えられる。暗号資産業界は、長い冬を迎えるかもしれない。
5.今後の着目ポイント
FTX Japanの資金が日本のユーザーに返済されるか
先述の通り、FTX Japanの顧客資金はコールドウォレットに保管されているとの公式発表があった。コールドウォレットでの顧客資金の保管は、19年に起きた暗号資産取引サービス「Coincheck」のハッキング事件を受けて制定された改正資金決済法の規定に基づいた措置である。資金が保管されていたことは喜ばしいが、この資金が日本のユーザーに全額返済されるかどうかはまだ不明だ。
暗号資産取引所「bitFlyer」の代表取締役である加納裕三氏は、「残されたパイを誰が先に食べるか」について「日本の改正資金決済法とアメリカのチャプター11がコンフリクトを起こしている」と、日本のユーザーに資金が優先弁済されない可能性もあると指摘している。この点がどうなるかは、今後の日本の取引所に関する規制にも影響を与えるだろう。
Alamedaはどのようにして莫大な資金を失ったのか
最終的なAlamedaとFTXの不足資金は1兆円以上といわれているが、これほどまでに莫大な資金をどのようにして失ったのだろうか。また失った資金は結局誰の財布に入ったのだろうか。同じ事件を繰り返さないためにも、AlamedaやFTXの運営、投資の実態を解明していく必要がある。
AlamedaやFTXが行っていたとうわさされる相場操縦の実態
FTXの倒産を機に、AlamedaやFTXが相場操縦を行ってきたのでは、との疑惑の声も増えている。たとえば5月に起きたLuna/USTの暴落事件はAlamedaが引き起こしたとのうわさも流れている。実際のところは分からないが、本当なら重大な問題である。
破産申請後のハッキングの詳細
ハッキングが誰によってどのように行われたのか、またサイトやアプリのシステムにも関与したものだったのか、など不明瞭な点が多い。内部犯も疑われている。FTXの資金やシステムの管理方法に問題があったのかを知るためにも、続報に注目したい。
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