ファッションNFTは「リアルとは異なる自分に」AKINGS CEO・Alan King氏【Web3の顔】

2022/10/05

米DJのスティーヴ・アオキやラッパーのリル・ベイビーなどに愛されるストリートファッション「AKINGS(エーキングス)」を生み出したニューヨーカーのデザイナー、Alan King氏。起業家センスも鋭く、NFTにいち早く注目し、リアルなファッションと交換できるNFT「AKINGS TRADING CARDS」を今年リリースした。

――そもそもなぜストリートファッションに引かれたのですか?

ニューヨークのチャイナタウンに生まれ育って、ストリートファッションには子供の頃から親しんできました。15歳で、気に入ったアイテムを仕入れて転売する一方、初のデザインも手がけました。ファッションというのは、単なる衣服ではない、もっと価値があるもので、自分でクリエートすれば、その価値は限界なく広がると思ったのです。

AKINGSを法人化したのは2017年ですが、私のシグネチャーで、誰にでもフィットするstacked jeansは15年にリリースしました。ビジネスの初期はかなり苦労しましたが、成功したきっかけは、何といってもソーシャルメディアです。FacebookやInstagramでコミュニティーを築き、デジタルマーケティングを展開したことです。プライベートブランドなので、売上高は公表していませんが、成功は売上高よりもソーシャルメディアのコミュニティー規模こそが物語ります。現在、Instagramは約6万7000人のフォロワー、TikTokは約7万4000人のフォロワーと420万の「like!」があります。ソーシャルメディアのフォロワーの合計は50万人を超えました。

――NFTに注目したきっかけは何だったのでしょう。

暗号資産や分散型金融(DeFi)については17年から真剣に考えるようになり、その後友人からのショールームでの支払いの際、暗号資産を受け入れるようになりました。当時はビジネスを始めたばかりで、仮に銀行口座を解約した場合、次の支払いはどこで受ければいいのか、といった不自由な既存の金融システムにも不満を持っていました。

次に、デザインの権利の保証、あるいはロイヤルティーについても疑問を持ちました。私のジーンズはオンラインで300ドル(約4万円)から販売していますが、2次マーケットで450ドル(約7万円)以上になっても、独立したデザイナーである私には10セントも支払われません。stacked jeansは、7年も続くプレミアムストリートファッションですから、心血を注いだクリエーティビティーに対し、常に報酬を得たいと思います。

NFTを始めたのは今年初めからで、ストリートファッションは、メタバースではかなりビッグなものであることを思い知りました。Discordのサーバーには、1カ月で5万〜10万の反響がありました。アクセスがあるだけでなく、成長率にも驚かされたのです。

――ストリートファッションのカルチャーがメタバースで注目されるのは、なぜですか。

NFTというコンセプトは、私にとってとても共鳴するところがあります。私のストリートウエアを所有することで、デジタルアイデンティティーにもステータスシンボルにもなります。ファッションは、単なる衣服ではなく、価値をも持てると言いましたが、NFTは自然にその特徴を持っています。

リアルな世界のファッションには、限界があります。時間と場所や職業、年齢などが適切でないケースがあるからです。例えば、40歳のビジネスパーソンがロックスターのような服をまといたいと思っても、パートナーや投資家に会う場合にはふさわしくないといったものです。でも、メタバースというデジタルスペースでは、リアルな世界とは別の自己表現ができます。それこそが、メタバースの世界でファッションやユーザーを大きく変化させ、進化させていくのです。

――wear to earn fashion(W2E、着て“稼ぐ”)であるAKINGS TRADING CARDSについて教えてください。

AKINGS TRADING CARDSは私のブランドファッションと引き換えることができます。特徴は、CARDSを入手し、デジタルでもリアルでもAKINGSを着る楽しみを刺激することです。ゲームに参加してルートボックスにあるパートナーのNFTやトークンを集めたり、現実の生活のVIPイベントチケットを入手したり、ドロップを探して近所のイベントに参加したりできます。こうしたインセンティブは全て無料です。それが、NFTホルダーというコミュニティーに価値を提供するにはどうしたらいいかと考えた結果です。

CARDSの値段は、アイテムの希少性とリアルな世界での価値にもとづいて決まります。さらに、メタバースで賞品をゲットすることが、ブランドの露出を高めてwear to earnにつながります。

AKINGSとのパートナーシップに関心を表明しているブランドには、「Diesel」や「Marni」を傘下に持つ(イタリアのアパレル大手の)OTBや(オランダの同業の)Lady M、またワイン・飲料大手のSovereign Brandsがあります。ゲームの中でのルートボックスを提供するゲームハウスには、EPIK PRIMEなども含まれます。

――世界の有名ファッションブランドも、NFT参入を発表していますが、競争に不安はないですか。

私のブランドが例えばリアルな世界で、莫大な資金力を持つ(高級ブランド最大手の)LVMHと同じ土俵で戦えますか? でも、メタバースでは彼らは船が大き過ぎて、素早くかじを取れないのです。小回りが効いて、ソーシャルメディアやDiscordで反応が早いコミュニティーを持つ私たちこそが、Web3で競争できるのです。

――イーサリアム相場には逆風が吹いていますが、その将来をどうみていますか。

リアルな金融市場の地合いが悪いので不安定ですが、将来は、リアルな相場と完全に切り離されていくと思います。経済の一部ではあるが、階層が違うところにあるようなイメージです。メタバースの中では、リアルな日常生活とは異なるスペースが展開される一方で、直に日常生活の一部に組み込まれていく部分も誕生していくでしょう。

津山 恵子(つやま・けいこ)プロフィール
ニューヨーク在住ジャーナリスト。
東京外国語大学卒、1988年共同通信社入社。福岡支社、長崎支局、東京経済部、ニューヨーク経済担当特派員を経て2007年に独立。Facebook(現Meta)のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)、Instagram 創業者ケビン・シストロム氏、ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ氏、YouTube共同創業者スティーブ・チェン氏、作曲家の坂本龍一氏、ジョン・ボルトン元米大統領補佐官、ジャシュ・ジェームズ米DOMO創業者などの著名経営者を単独インタビューしてきた。著書に「モバイルシフト」(アスキーメディアワークス)、「よくわかる通信業界」(日本実業出版社)など。日本外国人特派員協会(FCCJ)正会員。