「メタバースでこそ人間的な感性が大切」 VRアーティスト・せきぐちあいみが描く「メタバースの未来」

VRアートの先駆者として、国内外で幅広い活動を展開するせきぐちあいみさん。2021年には、NFT(非代替性トークン)として出品したアート作品「Alternate dimension 幻想絢爛」が約1300万円(69.697ETH)で落札され、大きな話題を呼んだ。22年は新年早々、「日本古来の文化×メタバース×NFT」というテーマの新プロジェクトを展開する。せきぐちさんが思い描く「メタバースの未来」とはどんな姿をしているのか、インタビューした。
■ VRアートは一つの世界を丸ごと生み出す「魔法」
――VRアーティストとして活動をはじめたきっかけを教えてください。
高校を卒業する頃からずっと、人を楽しませる仕事がしたくて。YouTuberだったり、タレントだったり、いろいろな活動をしていたのですが、2016年にVRヘッドセットの「HTC Vive」が発売されたタイミングで、あるゲーム会社さんを取材させていただいたんです。そこではじめてVRを体験しました。VRペイントツールの「Tilt Brush」に触れたのも、このときが最初ですね。「何もない空間に3Dの絵が描けるなんて、魔法みたい!」と驚いたことを覚えています。
あんまり私がはしゃいでいたものだから、取材先の会社さんがご好意で機材を貸してくれて(笑)。それからVRで絵を描くことにすっかりハマり、数カ月後には機材セットを一通り揃えていました。だから、最初は本当に純粋な好奇心で、VRアートをはじめたんです。これが仕事になるなんて、まったく考えていませんでした。そもそも当時は「VRアーティスト」なんて職業はありませんでしたしね。

――VRアートの、どんなところに魅力を感じたのでしょう?
一番は、その壮大さですね。以前、3Dプリントペンを使ったフィジカルな立体作品の制作に取り組んでいた時期もあるのですが、VRアートは、なんというかスケールが一段違っていて。ひとつのモノをつくるというよりも、世界そのものを創造しているような感覚なんです。そしてその世界のなかに、鑑賞者を招き入れることができる。それがVRアートの最大の魅力だと思います。
■ 初のNFTオークションが大成功した理由は?
――純粋な好奇心からはじめたVRアートが、仕事になりはじめたのはどのタイミングだったのでしょうか?
制作をはじめてから、数カ月後くらいでしょうか。誰に頼まれるともなく作品をSNSにアップしていたら、思わぬ反響があって。それがきっかけとなって、コカ・コーラやフィアット、プラダといったブランドから、コラボのお声がけをいただけるようになった形です。ただ、当時いただいていたオファーの多くがライブペイントのパフォーマンスを含むものでした。
私自身、VRアートを知ってもらうきっかけになればと、ライブペイントには力を入れていたのですが、2020年以降、新型コロナウイルスの影響で、お客さんを入れたパフォーマンスができなくなってしまって……。そういう意味では、2021年にNFTという新しいマネタイズの手法に巡り会えたのは幸運でしたね。

――せきぐちさん自身は、以前からNFTやブロックチェーンに関心があったのですか?
デジタルアートとブロックチェーン技術の相性の良さは、なんとなく感じていました。ただ、こんなに早くデジタルアートに資産価値が付与される時代がくるとは思ってもいませんでしたね。それこそメタバースがもっと発展して、バーチャルな世界で生きることが当たり前になった段階ではじめて、デジタルデータを売り買いする仕組みが整ってくると考えていたんです。
だから去年の3月に、ビープルのデジタルコラージュが75億円で落札されたときにはびっくりしました。「順番が違うじゃん!」と(笑)。その直後から、私のところにもNFTオークションに出品しないかというお誘いが届くようになったんです。最初は何が何だかわからなかったのですが、あれこれと調べているうちに「自分でできるのでは?」と思えてきて。結局、ネットの記事などを参考に自前でトークンを発行し、OpenSeaに出品してみたんです。
――それが約1300万円(69.697ETH)で即日落札された「Alternate dimension 幻想絢爛」ですね。
想像以上の評価に、自分でも驚きました。それはつまり、NFTとメタバースとが結びつくことで生まれる新たな価値への期待の表れだと思うんです。「Alternate dimension 幻想絢爛」は、「固定観念を突き抜けた先に、まだ見ぬ世界が広がっている」というイメージで制作した作品だったので、そういう意味では図らずも「NFT×メタバース」という新時代の到来を象徴する作品になったのかもしれません。

■ メタバースが「人間らしさ」を拡張してくれる
――せきぐちさんが仰ってくれたように、いまメタバースやNFTに対する期待は、非常に高まっています。一方でこの2つのキーワードは、ある種バズワード的に消費されている側面もあると思うのですが、その点についてはどのようにお考えですか?
どうなんでしょう。まず私は「メタバース」という言葉が生まれたこと自体はポジティブに受けとめていて。VRやMRやXRみたいに、同じような言葉が乱立していると、やっぱり普通の人には伝わらないですよ。その点では、「メタバース」というキャッチーなフレーズを歓迎しています。
一方で「これからはメタバースが儲かるらしいぞ」というノリで、ワーッとこの世界に参入してきた人がいるのは確かです。けれど、私はそれを否定する気もなくて。実際にビジネスチャンスもあると思うんですよ。ただ、私個人としては自身はお金儲けのツールとしてのメタバースには、あまり関心がないですね。
――せきぐちさんは、メタバースをどのようなツールとして捉えているのですか?
人間の人間らしさを拡張するツールだと思っています。メタバースって、誰もが自分自身が望む姿(=アバター)になれる世界じゃないですか。つまりそこでは、年齢や性別、人種、外見といった垣根なしに、より内面を重視したコミュニケーションが可能になる。私は、そこにすごく可能性を感じているんです。ネットの世界というと、無味乾燥なイメージをもたれがちですが、私はメタバースでこそ、思いやりや想像力といった、人間的な感性が大切になると考えています。

NFTが起こした「革命」の凄さとは?
――NFTについてはいかがですか? NFTの仕組み自体は理解していても、実際のところ、なぜ人々が高額のNFTアートを購入するのか、うまく理解できていない人も大勢います。
そうですね。そこは本当に人それぞれだと思います。現代アートと同じように、投資目的でNFTアートを購入している人もいるでしょう。アーティストを応援するためだったり、メタバースというムーブメント全体を盛り上げるため、という人もいます。いまNFTアートを購入することが、ある種のステータスだと感じている人もいるはずです。
ちなみに私自身もいくつかのNFTアートを所有しているのですが、個人的にはフィジカルなアート作品を購入することと、ほとんど同じ感覚なんですよ。それは私が一日約6時間ほどをメタバースのなかで過ごしていることと関係しているのかもしれません。部屋に飾るために絵を買うのと同じように、ごく普通にNFTアートを購入しています。こういった感覚はまだまだ少数派なのかもしれませんが、メタバースの普及が進めば、みなさん自然とそう感じるようなるのではないでしょうか。
――クリエイターという立場から、NFTという仕組みをどのように評価していますか?
画期的な仕組みだと思います。特に素晴らしいのは、二次流通市場でNFTが取引されるたびに、つまり作品が「転売」されるたびに、クリエイターやIPホルダーにロイヤリティが還元される仕組みが実装されはじめていることです。これまではどんなに高額で作品が転売されようと、作り手には利益が還元されないことが当たり前でしたからね。本当に革命的なことだと思います。

■ 新プロジェクト「Crypto Zinja」の可能性
――2021年は「メタバース元年」「NFT元年」とも呼ばれていますが、2022年にはどのような変化が起こりそうでしょうか? せきぐちさんの予想を教えてください。
うーん、難しい質問ですね。例えば、2016年は「VR元年」なんて呼ばれていたわけですが、そこから一気にVRが普及したかと言えば、そんなこともなくて(笑)。ただ、私自身は、メタバースにしてもNFTにしても、ボーダレスに世界をつなげる技術として、その力にすごく期待しているんです。だからこそ、手をこまねいているだけではなく、メタバースやNFTが当たり前になる世界を目指して、アーティストとして能動的にアクションを起こしていきたい。あまり予想にはなっていませんが、そんなところでしょうか。
――ありがとうございます。最後に、せきぐちさん自身の今後の展望を教えてください。
年明けの1月9日に、「NFT×Metaverse×日本古来の伝統文化」をコンセプトに、メタバース空間に誰でも出入り自由な神社を創建する「Crypto Zinja」というプロジェクトをローンチしようと考えています。
――メタバースと神社、ですか。意外な組み合わせですね。
ボーダレスな空間であるメタバースが危険な無法地帯にならないためには、他者を思いやる「和の精神」が欠かせないと思っていて。そうした「和の精神」を育む空間を、メタバース内につくりたかったんです。そこで選んだのが、日本人の感覚に慣れ親しんだ神社というフォーマットでした。
「Crypto Zinja」の神社内にはいくつもの鳥居を設けてあり、そこに名前を刻む権利をNFT化することも考えています。いわゆる「寄進」をNFTで再現するイメージですね。今回は「鳥居に名前を刻む権利」をNFTにしますが、今後は多くのものがNFTと結びついていくんだろうなと思います。
ほかにもさまざまなプロジェクトを構想中ですが、とにかく私は、まだ誰も見たこともないような、新しいもので人々の想像力を刺激していきたいんです。それで、ひとりでも多くの人を喜ばせたい。その想いこそが、これからも変わらない私の原動力です。

せきぐちあいみ・プロフィール
VRアーティストとして多種多様なアート作品を制作しながら、国内にとどまらず、海外(アメリカ、ドイツ、フランス、ロシア、UAE、タイ、マレーシア、シンガポールetc)でもVRパフォーマンスを披露して活動している。2017年、VRアート普及のため、世界初のVR個展を実施すべくクラウドファンディングに挑戦し、目標額の3倍強(347%)を達成。2021年3月には、NFTオークションにて約1300万円の値を付け、落札された。同年末、その活躍が評価され、「2021 Forbes JAPAN 100」に選出された。クリーク・アンド・リバー社所属。滋慶学園COMグループ、VR教育顧問。Withingsアンバサダー。福島県南相馬市「みなみそうま 未来えがき大使」。
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