「新しいパラダイム、作り手として飛び込みたい」 元ライフネット岩瀬氏、香港でNFT事業に挑む理由

2021/12/22
岩瀬大輔氏(KLKTN Limited 提供 )

ライフネット生命保険の共同創業者で知られる岩瀬大輔氏が、2021年7月に香港で「Kollektion(コレクション)」を展開するKLKTN Limitedを設立した。音楽プロデューサー兼ソングライターの Jeff Miyahara(ジェフ・ミヤハラ) 氏、Dapper Labs で Cryptokitties の開発に携わった Fabiano Soriani(ファビアーノ・ソリアーニ) 氏らとの共同創業だ。岩瀬氏は、なぜ香港でNFTプラットフォームを創業したのか。その理由や今後の展望を聞いた。

■自分でもう一度チャレンジしたい

岩瀬氏は1998年に東京大学法学部を卒業。在学中に司法試験に合格し、ボストン・コンサルティング・グループやハーバード大学MBAへの留学などを経て、2006年ライフネット生命保険の立ち上げに参画した。2013年に社長、2018年に会長を経たのち、2019年に退任。アジア最大手の保険会社、AIAグループのCDO(Chief Digital Officer)として香港本社に勤務する。

同社を2020年8月に退任し、香港を拠点にフィンテック・ヘルステック企業の成長支援を実施するアドバイザリーファームTiger Gate Capital を設立。、港区に拠点を置くVC、Spiral Capital(スパイラルキャピタル)のマネージングパートナーやベネッセホールディングスの社外取締役も務めている。その上で、 KLKTN Limited も設立したのは

「ずっとフィンテックで金融とテクノロジーが交差するところに携わってきた。もともとピアノも弾くし、アートやカルチャーが大好き。香港でグローバルビジネスをやりたい、その1つとしてNFTを活用した起業を考えました」(岩瀬氏)

ベンチャーキャピタリストやアドバイザーとしてNFT事業に携わることもできる。しかし多くの若手起業家と会うようになったことから「応援も素晴らしいが、自分でもう一度、一から事業を作ることにチャレンジしてみたい」と触発されたという。

■ストック型ではなくフロー型のNFTビジネス

Kollektionのトップページ

2021年3月に 共同創業者のJeff Miyahara 氏に出会い、4月には法人設立を始めた。 NFTプラットフォーム「Kollektion(コレクション)」では現在、音楽やコミックなどのNFTを販売。販売するNFTは、ストック型ではなくフロー型のビジネスを意識しているという。

岩瀬氏は、過去の有名作品などのコンテンツをNFTにして販売する方式を「ストック型」、新しいクリエイターの作品を分割して販売する方式を「フロー型」と表現している。

「NFTは一次ブームで盛り上がっている。しかしストック型NFTの購入者はクリプト(暗号資産)長者で、ETH(イーサ)をたくさん持っている人。一般の人は、漫画や音楽に何百万、何千万円と使えるお金はない。長中期的に考えて、NFTがごく一般化した際に多くの人に支持されるモデルにしたかった」(岩瀬氏)

フロー型NFTの第一弾として、12月27日からは講談社ヤングマガジン編集部と連携し、同日連載開始の「code:ノストラ」の初回連載分から、各ページをNFT化して数量限定で販売する。新しいヤングマガジンが発売されるたびに、掲載分の各ページがNFT化されて発売されるという。

「新連載を分割してNFT化することでは『読者もともに作品を育てていく』ことにつながります」(岩瀬氏)

作家は同NFTが流通した後の2次販売からも、ロイヤリティを得ることができる。また、ファンの立場としても、購入したNFTを転売することもできるほか、のちにその漫画がヒットした時に、新連載スタート時から応援していたという「目利き」の証明になるという効果もある。

■香港にはまだダイナミズムがある

香港は創立以来の激動に見舞われた

2019年から、民主化デモに続き、新型コロナウイルスのパンデミックに襲われている香港。在留邦人は近年になく減少しているとも言われている。なぜ香港を拠点に起業したのだろうか。

「『香港は大丈夫ですか』とよく聞かれますが、僕が香港で仕事をしているのは、コスモポリタンでダイナミックな環境は変わらないと考えているからです」(岩瀬氏)

「日本にいると、どうしてもだんだんジャパニーズ・ドメスティックになってくる。香港に飛行機で降り立った瞬間から、世界が開けていくような感覚があるんです。中国と世界をつなぐゲートウェイというだけでなく、アジアと世界をつなぐゲートウェイでもある。基本的にはいろんなことを自由にできる場所だと思っています」(同)

■グローバルなビジネスを作りたい

KLKTN Limited に参画するメンバーは多岐にわたり、デザイナーはイギリスのロンドン、エンジニアはカナダのバンクーバーやモントリオール在住。

プラットフォームのデザインが「日本語で見ると違和感があるかもしれない」(岩瀬氏)のはそのためだ。

「でもそれでいいと思っています。日本に最適化したものを作って、グローバル化しようとすると難しい。我々のチームも、香港人、ロンドン在住の韓国人、バンクーバー在住の白人やアジア人といったように様々な人材が混ざり合って、新しいことを生み出しています」(岩瀬氏)

一方で、暗号資産に関する中国当局の規制が非常に厳しいのも確か。2021年9月には、中国人民銀行が中国国内における暗号資産関連の事業活動を、全面的に禁止すると通知している。

「香港に関しても、どんな方向で規制が変わっていくか注視したいと考えています。もっとも、我々のサービスは暗号資産に特化しているわけではなく、クレジットカードでも購入可能です。短期的なバブルを超えて、普通の人に幅広く使ってもらえるように先を見据えて作っています」(岩瀬氏)

■ブームが去っても本質的なものは残る

世界的にWeb3.0やメタバース、そしてNFTブームが沸き起こっている。

「ブームは何事にも始まりと終わりがあります。NFTにしても全部が全部、今の値段で取引されるとは限りませんが、ブーム後も残る本質的なものを追求していきたい」(岩瀬氏)。

「資金や人材がブロックチェーンという新しい技術に集まって、様々なイノベーションを起こそうと試行錯誤しています。どうなるかは誰も分からないので、僕らは地に足をつけて、本当にファンが喜ぶもの、アーティストが喜ぶことを追求していきます」(同)

純粋なコレクション(蒐集体験)だけでは広がりがない、と考える岩瀬氏らは、NFTを使って、ファンの体験をいかに豊かにするかという点に主眼を置いている。

「音楽でいえば、ファンの楽しみ方には『聴いて味わう』だけでなく『アーティストの日常を知る』『ライブやイベントに参加する』といったものもあります。NFTを使って、どうやってこれらの体験を豊かにするかを追求していきたいと思っています」(岩瀬氏)

例えば、1月2日からスタートする、エレクトリックギターを指で弾く“スラップ奏法”ギタリストMIYAVI氏の「Month of MIYAVI」では、今後380以上発行されるMIYAVIのNFTエアドロップ(無償配布)にアクセスできる「MIYAVI KLKTN Pass(コレクション・パス)のほか、様々な形式のNFTの発売が予定されている。

“スラップ奏法”ギタリストのMIYAVI氏(プレスリリースより)

楽曲制作の裏側やオフショットを見られる「Moments(モーメント)」、 シリアルナンバー入り デジタルアートワークNFTの「ArtKards(アートカードセット)」や、 音楽がデジタル化される前のCDジャケットには含まれていた、カバーアートや歌詞、 ライナーノーツなどをデジタル化したKodex(コーデックス)などだ。デジタルサイン入りのNFTや、個人へのメッセージが入ったビデオNFTの抽選権がついてくるものもある。ファンにとって、入手できればこの上ない自慢の品になるかもしれない。

「NFTという新しい技術が生まれて、新しいパラダイムが作られようとしています。作り手として飛び込んで、自分たちも新しいものを生み出していく存在になりたいですね」(岩瀬氏)