「メタバースの相互運用を」Animoca Brandsディレクターが語る新しいDAOプロジェクト
NFTゲーム「The Sandbox」など、有力なメタバースプラットフォームを子会社に持ち、Web3領域でデジタルエンターテインメント業界をけん引してきたAnimoca Brands。
同社のデジタル戦略やパートナーシップ担当ディレクターを務めるZaf Chow氏に、Web3時代のファンとアーティストの関係性やNFTの現状と課題、メタバースの可能性について聞いた。
Web2のコンテンツホルダーをWeb3の世界にいざなう
──Animoca Brandsで現在取り組んでいることについて教えてください。
私の役割はAnimoca Brandsの戦略的パートナーシップの推進です。音楽やファッション、映画といった分野のNFTに注力しており、マスアダプション(一般大衆による受け入れ)の促進へ、より多くのWeb2コミュニティーをWeb3へ取り込もうとしています。
私たちの仕事は、さまざまなブランドと話をし、彼らにWeb3について理解してもらうことだと考えています。多くのブランドやIP(知的財産)ホルダーは、Web3を暗号資産のようなものとしてしか理解していません。そのためWeb3で何が起こっているのか、そして彼らに何ができるのか伝える必要があるのです。
彼らができることはたくさんあり、最終的には彼らが適切な方法でWeb3をビジネスに取り入れられるようにすることが重要です。
相乗効果によるK-POPファンとアーティストの新たな可能性
──現在注目している興味深いプロジェクトや領域はありますか?
今私は、K-POP業界とのプロジェクトに取り組んでいるんです。韓国の芸能プロダクションのCube エンターテインメントと「AniCube」というプロジェクトを立ち上げ、ファンとアーティストの新しいつながり方を生み出そうとしています。
従来、アーティストとファンのコミュニケーションは一方通行でした。アーティストが新しいアルバムなどを発表すると、ファンはそれに反応するだけで、音楽制作やクリエーティブなことには関与していないことがほとんどです。
なので、ファンがアーティストともっと密接な関係を持てるようにしようとしています。 彼らの間のギャップを埋めることで、ファンのコミュニティーからより大きな相乗効果と創造性を生み出すことができるでしょう。
まずは、より物理的なことをやろうとしています。多くのファンは、Web3が何であるかを理解していないと思いますし、そのような人たちにアプローチするのは難しいことでした。そこで今年は、韓国のショッピングモールとのコラボレーションなどファンが実際に足を運んで、触って理解してもらえるような物理的なアプローチに力を入れています。
実際に私たちは、多くのファッションブランドやスタートアップと話をし、双方のビジネスにおける相乗効果を狙っています。Animoca Brandsはメタバースなどの多くの企業に投資していますからね。
また、私たちはブランドとメタバースをつなぐハブとして最適な立場にいると考えています。例えば、自社でメタバースを所有しているファッションブランドは現在、特定のプラットフォームでしか訪れることができず、他のメタバースやブランドには開放していません。しかし、Animoca Brandsが主導するDAO(分散型自律組織)の「Open Metaverse Alliance for web3(OMA3)」では、プラットフォームが相互に接続され、完全に相互運用可能なメタバースを目指しています。OMA3ではすべてのブランドとメタバースに、境界はありません。
ユニクロからWeb3業界へ
──Zaf氏の前職はユニクロとフィンテック領域のスタートアップでした。Web3業界に入ったきっかけなどを聞かせてください。
香港の大学を卒業して最初に就職したのは日本でした。ユニクロで5年間働き、日本語を一から勉強して、日本人ばかりの店舗を運営しました。
今振り返っても、とても魅力的な経験でした。店舗運営や他の経営者との出会いなど、多くのことを学ぶことができましたから。ユニクロの後にスタートアップを立ち上げようと思ったのも、その経験があったからです。
その後香港に戻った時、POS(販売時点情報管理)システムを使うことなくすべてのレストランに注文できる「モバイルフード注文戦略」というものに出合いました。料理配達サービスの「Uber Eats」や「foodpanda」で利用されているようなものです。今はもっと普及していますが、2016年の当時は早すぎました。まだモバイル決済もなくて。これも最近になって追いついてきましたよね。
その後、「支付宝(アリペイ)」というアリババ集団のスマートフォン決済を扱うフィンテック企業で2年間働きました。そして分散型金融のDeFiやGameFiに出合ったのですが、GameFiは本当に理にかなっていると思いました。私はゲーマーではなかったのですが、時間を投資してゲームをプレーしても目に見えるものは何も得られないし、お金を払って武器や道具などを買うだけで何の見返りもないような気がしていたからです。
でも、GameFiでは、プレーヤーひとりひとりがゲームへの投資家であり、ツールを買ったりアバターを買ったりして、レベルアップしていくことができます。そして、ゲームをプレーしたくなくなったら、そこで獲得したトークンやNFTなどのアセットを売却できる。つまり、ゲームを楽しむと同時に「投資」ができるんです。
Web3に興味を持ったあと、香港を拠点にするWeb3でもっとも大きな企業のAnimoca Brandsにひかれたのは当然の選択でした。こうして私はWeb3業界に参入したのです。
Web3が新しいコンテンツの可能性を切り開く
──NFTやWeb3の技術について感じている次のステップや課題などはありますか。
多くの人はWeb3の本質を理解しておらず、暗号資産に関連した、ハイリスクで不安定な市場だと思っています。2022年は、暗号資産のLunaの暴落や(暗号資産交換業大手の)FTXトレーディング破綻のようなクレイジーな出来事があったので、それをWeb3と結びつけているのでしょう。なので、一般の人たちにWeb3を普及させるのは少し難しいと思います。
Web2と組み合わせて現実世界の問題を解決したり、NFTを知らなくても購入できるようにしたりする方法が、今後1~2年の間に求められていくことだと感じています。
──ブロックチェーンは、日本のコンテンツのポテンシャルを多様化させるという意味でも役立つような気がします。
そうなんです。Web3では、より柔軟で面白いことができます。先ほどのK-POPの例でもそうですが、以前はコンテンツホルダーからのコミュニケーションは、代理店を通しての一方通行がほとんどでした。ファンにはコンテンツ制作に参加する機会がありませんでしたが、人々を巻き込むことは本当に面白いことだと思います。将来的にはファンによる投票で漫画のシナリオを変更できるようになるとか、そういうちょっとしたことからもっと創造性を発揮できるようになるでしょう。
私たちの投資企業の中にも、そのような取り組みをしているところがあります。脚本があって、人々がどれがいいか投票し、実際に映画にして、全員がガバナンスのトークンを持ち、売り上げが分配されるというようなものです。動画配信の米Netflixとのコラボレーションが多いので、主に米国での取り組みが多いですが、漫画カルチャーが盛んな日本での取り組みはとても面白いと思っています。
日本の市場はユニークで、アニメや漫画に対するファンの情熱も、他の地域とはまったく違います。ファンはより熱心で“忠誠心”が強いです。しかし、従来の、例えば漫画家のような人たちに、新しいことに挑戦するよう説得するのは、少し難しいのではないかと思います。コンテンツを海外に売って、それを全部代理店に任せるというようなモデルは、従来の枠組みを壊すようなものですから。大変ですが、それを乗り越えれば可能性は無限大です。
メタバース間の相互運用性を主導するDAO組織、OMA3が目指すもの
──Animoca Brandsは、メタバース間をどのように相互運用していこうとしていますか?
相互運用性というのは、もちろん私たちも重視していることで、そのためにOMA3を立ち上げました。このDAOには既に、約100のメタバースが参加しています。
そこで私たちは、参加企業同士がより多くのコミュニケーションを図り、資産を譲渡できるようにする方法を考えています。なぜなら、NFTやトークンといったオンライン上の資産は、どこででも使えてこそ価値があるものだととらえているからです。
1つのショップや1つのメタバースの中にあるだけでは、現実の世界では意味がありません。資産に価値を提供するためには相互運用性が重要です。そのために私たちは尽力しています。
現時点では、個々のメタバースは分散化されているため、私たちがすべてのメタバースをコントロールできるわけではありません。それらのメタバースが集まって相互運用できるまでには長い時間とプロセスが必要になるでしょう。私たちが主導しているOMA3は、誰もが発言できるDAOプロジェクトにして、その世界を実現しようとしています。
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