「Move to Earn」も登場! 加熱するNFTゲームの世界

2021/12/14

最近、欧米テックメディアでは「NFTゲーム」の話題が急速に増えている。

NFTゲームトレンドを形成したパイオニアの1つが「Axie Infinity」。ポケモンからインスピレーションを得たといわれるモンスター対戦型ゲーム。「Axie」と呼ばれるモンスターを育成・対戦させ、新たなAxieを誕生させる。

各AxieはNFT化されており、マーケットプレイスで販売・購入することが可能。2020年11月には、AxieのNFTが300ETH(当時のレートで約1300万円)という値段で取り引きされたことが話題になった。

Axie Infinityウェブサイト

このAxie Infinityで新規プレイヤーがゲームを開始するには、まず3匹のAxieを購入することが求められるが、その価格は最低でも1匹あたり100ドル以上するほど値上がりしており、新規プレイヤーの参入のハードルが上がっている。

そんな中、人気が高まっているのが対戦カードゲーム「SplinterLands」だ。

攻撃カードや魔法カードを組み合わせて対戦相手を負かすことで、ダーク・エナジー・クリスタル(DEC)というリワードを獲得していくゲームだ。このDECは、新しいカードの取得に用いることが可能。Axieと同様に、このカードもNFT化されており、マーケットプレイスでレンタルや販売ができる。

Axie InfinityやSplinterLandsは「Play to Earn」ゲームとも呼ばれている。文字通り、ゲームをプレイして稼ぐという意味だ。

こうした「Play to Earn」ゲームの人気ぶりについては、以前お伝えした通り、DappRadarの「Top Blockchain Games」のデータを見ると、1週間のユーザー数はSplinterLandsが約58万人で1位、Axie Infinityが約37万人で3位となっている(2021年12月4日時点のランキング)。

■NFTゲーム市場、次のトレンドは?

NFTゲームの人気の高まりを受け、ベンチャーキャピタルによる次の「Axie Infinity」や「SplinterLands」の発掘が活発化している。

注目株の1つはサイエンスフィクションカードゲーム「Parallel」だ。Techcrunchの2021年10月21日の記事によると、Parallelの開発会社はこのほど、クリプト系ベンチャーキャピタルParadigmから50万ドル(約57億円)を調達、評価額は5億ドル(約500億円)に達したという。出資者としてYouTubeの共同創業者チャド・ハーリー氏が名を連ねていることもあり、注目を集めている。

Parallelは、エネルギー危機を回避しようとした人類が直面する暗黒世界を舞台にした空想科学のカードゲーム。他のNFTゲーム同様に、カードがNFT化されており、ETHでの取り引きが可能となっている。

暗号資産情報を追跡しているCryptoSlamによると、今年8月にトレンド第1波、11月に第2波が起こり、マーケットプレイスでの取引高はこれまでに1億6000万ドル(約180億円)を超えたとされている。レアカードは、最大110万ドル(約1億2543万円)という高額で取引されている。

Parallelウェブサイト

NFTのマーケットプレイスOpenSeaに開設されたParallelの公式アカウントによると、12月4日までに382枚のカードが発行され、カードの所有者は約3万人となっている。

このようにカードゲームの場合は、NFTカードを高額で転売できる点が多くのプレイヤーを引きつけているといえるだろう。

一方、Axie InfinityやSplinterLandsのような「Play to Earn」ゲームと似ているが、スタイルが異なるNFTゲームとして注目されているのが「Move to Earn」ゲームだ。

このスタイルのNFTゲーム第1号といわれているのが「Genopets」。現実世界の歩数によってリワードを獲得できる「健康促進のゲーム」。今年10月に、シードラウンドで830万ドル(約9億4649万円)を調達した

ゲーム自体は、ポケモンのようなモンスター対戦型のものだが、スマホとウェアラブルデバイスのデータから現実世界での歩数を計算し、それに応じてゲーム内でリワードを与える点が他のNFTゲームと大きく異なる。

Axie Infinityではゲームを開始するのに最低でも400ドル(約45000円)ほどが必要だが、Genopetsは無料で開始できる。モンスターは、ユーザーの心理属性データや生体データからユニークな個体が生成されNFT化される。

歩数を増やすほか、「habitat」と呼ばれるアイテムを購入することでリワードの獲得率を高めることが可能。このhabitat購入後に、NFTマーケットプレイスへのアクセスが付与され、様々なNFTアイテムの取り引きができるようになる仕組みとなっている。

Genopetsウェブサイト

■加熱するNFTゲームに対する逆風も

注目を集めるNFTゲームだが、ネガティブな意見や批判もある。ゲーム関連企業の中には、NFTゲームを規制する対策を取るところも出てきている。

たとえば、オンラインゲームの大手プラットフォームSteamは10月に、ブロックチェーンとNFTを扱うゲームを禁止する措置を実施した

月間アクティブユーザー数1億2000万人、プレイ可能なゲーム数5万以上を誇る巨大プラットフォームであるSteamのこの動きは大きな波紋を呼んだ

最近のNFTゲームへの関心の高まりからNFTゲームを開発し、Steamでの提供を計画していたゲーム開発者は少なくないと思われる。今回の禁止措置で、これらのゲーム開発者は多大な損失を被ることになるだろう。

Steamがこの決定に至った詳細な経緯は不明だが、最近起こった「Evolved Apes詐欺事件」が影響した可能性が指摘されている

Evolved Apesは、類人猿(Ape)をモチーフにしたデジタルアート作品をマーケットプレイスで売買するNFTのプロジェクトとして、Openseaでスタートした。Evolved Apesの開発者らは、このNFTアートをベースとする対戦ゲームを開発することを約束。ゲームに対する期待感から、NFTアートの価格が高騰し、総額270万ドル(約3億円)に達した。

しかし、開発者らはゲームを開発せずに、その資金を持ったまま姿を消してしまった。このような詐欺に利用される可能性がNFTゲームにはある、という指摘があるのだ。

一方、Steamが本社を置いているワシントン州のギャンブル関連法案に抵触することを恐れたのではないか、とする見方もある。同州の法律に照らすと、NFTゲームは違法なオンラインギャンブルだと認定される恐れがあり、Steamはそのような事態を避けたというわけだ。

いずれにしても、SteamはNFTゲームを認めないという判断をした。この決定が今後のゲーム業界にどのような影響を与えるのかは未知数だが、今後は、NFTゲームに関して相応の規制が導入されていくシナリオが想定される。

一方、Steamとは異なり、NFTゲームをポジティブに受け入れようとするゲーム業界のビッグプレイヤーもいる。

全世界で3億5000万人ものユーザーを抱える「フォートナイト」の開発企業、Epic Gamesのティム・スウィーニーCEOは、Steamのニュースが流れたあと、自身のツイッターで「関連法の遵守、条件の開示、年齢制限の適応が満たされていることを条件に、Epic Games Storeでは、ブロックチェーンを活用したゲームを歓迎する」と表明している。

NFTゲームをめぐる光と影。その両面を見つめながら、NFTゲーム市場が健全に発展していくために、規制・ルールづくりの議論を本格化させていくことが必要だろう。