
Rinna ♥︎ 猫りんなさん(以下、りんなさん)は、タイ出身の日本で活躍するアーティストだ。タイとイギリスの大学で建築やグラフィックデザインを学んだあと、デザイナーやイラストレーターとして活躍。徐々にイラストに情熱を傾けるようになり、2021年からNFTを始めた。
世界各所から評価を得ながら、アート仲間とのコミュニティ活動も展開。このたび、6月20日からニューヨークで開催されるNFT.NYC 2022の「Diversity of Art Showcase」に選出された。それまでの経緯や、出品作品「Mirror ♥︎ Mirror」(Mirror heart Mirror)について聞いた。そこにはりんなさんの、大きな希望が託されていた。
■ 鏡に映る自分も、誰かと同じ人間
――「The NFT.NYC Diversity of Art Showcase」に参加することになった経緯や、作品にかける思いなどを聞かせていただけますか。
NFT.NYCに応募した際、作品を公開しているFoundationのURLを送って、今一緒にアート活動を行っている「ArtGumi ♥︎ アート組(以降、アート組)」の仲間との取り組みを伝えてアピールしました。こうした私の作品や活動を評価いただいて、その後NFT.NYCから「Congratulation(おめでとう)!あなたは選考を通過しました」というメールをいただきました。
NFT.NYCに提出した作品名は「Mirror ♥︎ Mirror」です。鏡に映る人を通して、今回のテーマである多様性(Diversity)を描きました。鏡に自分の姿を見るように、他人の中に自分を見て、自分の中に他人を見ることができれば、お互いにもっと優しくなれて理解し合えるのではないかというのが、作品の核となるメッセージです。
見た目は違っても、体を構成する骨などは皆同じものを持っています。ですから、自分を見るのと同じように、偏見のない視線で他の人を見られたら素直にわかり合えると思います。このような視点が、多様性にとって大切ではないかと考えました。
また、私は「POP + OPTIMISTIC + KAWAII」をコンセプトに、ポジティブでかわいい女の子の作品を作っています。若い女の子とレディーの境界線の表現を目指し、女の子の世界でポジティブな視線から見たいろいろなことを表現しています。

――今回のインタビューの依頼をお送りした際、愛犬につきっきりで看病しながら、新作を作っているとおっしゃっていましたね。とても辛い時期での制作活動だったと想像していました。
はい。「Mirror ♥︎ Mirror」制作中、愛犬のトムちゃんが大病になり、24時間点滴が必要になりました。トムちゃんが寝ている合間に作品と向き合っていました。完成した作品をNFT.NYCに送付したタイミングで、トムちゃんは天寿を全うしました。この作品は私にとって、いろいろな意味で「諦めない」という気持ちの現れでもあります。
私自身はNFT.NYCのイベントに参加することができませんが、私の作品を見る機会がある方は、作品を写真やビデオに撮ってもらえたらうれしいです。私の作品を偶然目にした人が、世界中の人々が人間同士として生きていることを実感してもらえたらと願っています。
■ 2歳から絵を描き始めて、2021年にNFTに出会う
――りんなさんのアーティスト活動についてうかがいたいのですが、まず、イラストレーターを目指した理由を教えてください。
絵を書き出したのは2歳からです。父が2歳の私に「家の壁に描いてもいいよ」と言ってクレヨンを3本渡してくれました。「でもリビングだけだよ。他の部屋はダメだよ」と言われたのですが、私は全部の部屋に描いてしまいました。母からはすごく怒られて(笑)!
でも、おかげでアートは自由な表現であることを学びました。父から「絵を描くときに消しゴムは使わないように。もし間違っても消さないで、その線はどうすればいいか自分で考えなさい」と言われました。まるでimprovisation(インプロビゼーション、即興)のようです。実際、間違ってしまったら、「じゃあこれは猫にしちゃおう」とアレンジしていく練習につながりました。
タイの大学を卒業後、1年間イギリスのデザイン系大学に留学しました。そこは面白くて、アーティスト以外にもコンピュータサイエンティストをはじめいろいろな人がいて、プロジェクトでは私が音楽を担当することもありました。専門外の分野をやることで、他の人の考え方に触れられるので、チームワークをより理解できるようになり、楽しかったですね。こんな経験からも、たくさんの人のいろいろな考え方をわかるようになりたいと思いました。
――日本に活動の場を移すようになったのはいつからでしょうか。
2016年からです。卒業後にイラストを展示したり、アートフェアに出たり、賞をいただいたりして、日本に知人が増え、日本からのオファーも増えてきたので、拠点を移すことにしました。私の作品は日本のシーンに合っていたようです。
――NFTを始めたきっかけを教えていただけますか。
日本での仕事でお世話になった谷口純弘さんのChignitta(チグニッタ)というコミュニティに参加させてもらっていたのですが、そこでNFTの勉強会があり、Fracton Venturesの鈴木雄大さんがNFTのいろいろなことを教えてくれました。
私は「やってみたい」と思ったのですが、2021年7月当時はまだNFTをやっている人が少なく、1人で始めました。最初はOpenSeaでMintしましたが、作品はチグニッタでつながった友人DUOさんが買ってくれました。
その後、活動の場をもっと広げたいと思い、タイのNFTコミュニティに参加しました。そこには何万人も参加者がいて、私が作品をMintしたらどんどん広まって、やがてFoundationの紹介をもらって、そこで活動することにしました。Foundationでは海外のコレクターさんが買ってくださるようになり、値段が上がっていきました。今もFoundationをメインにNFTの活動を行っています。
――アート組を結成したのはNFTを始めてからですか?
はい。NFTを始めてから、素晴らしい出会いやチャンスに恵まれました。そんなとき、もし私よりも素晴らしいアーティスト仲間がNFTの活動をしたら、私よりも素晴らしいことになるのではないか、一人よりもコミュニティでやっていく方が楽しいのではないかと思い、「アート組」を立ち上げたんです。
当時NFTをしている人が少なかったので、先ほど話に出したDUOさんと妹と3人でグループをスタートして、知り合ったインタナショナル・アーティストや同じアートフェアに出た友人などを誘って、小さなグループを作ってスタートしました。
アート組はインタナショナルアーティスト、キュレーター、ギャラリー、アート愛好家のコミュニティです。フィジカルアーティストがNFTを始めるだけではなく、デジタルアーティストがフィジカル空間に自分の作品を展示することも大事にしています。フィジカルアートとデジタルアートの架け橋として活動しているともいえます。
アート組のアクティブ・メンバーは約50人ですが、みんな自分のできることでお互いサポートし合って、素晴らしい成果がどんどん出てきています。
NFT.NYCに選出されたアート組のアーティストは4人です。タイムズスクエアに出るのは私とDRAWMAMAさんの2人ですが、NFT ASIAのギャラリーにはYkha Amelz さんと Rensi Ardintaさんが出ます。6月17〜25日には「メタセコイア・キョウマチボリ・アートフェア2022」の特別企画展で、アート組としては初の展示を行うことになりました。
NFT.NYCは人生の一番大きなチャンスだと思っています。NFTのおかげでインターナショナルなデビューが叶いました。NFTで世界とつながることで、今回の素晴らしい機会が生まれたと思っています。

■ NFTの可能性は、今ある大きな塊を分散できること
――現在、一生懸命取り組んでいることや新しくやってみたいことはありますか?
私がNFTをやりたい理由は、さまざまなことをdecentralize(分散化)させたい、させられると思っているからです。今までの世界は中央集権型でした。ピラミッドのような大きな塊があって、上にいる人が下の人に指令を出すのが常でした。そうした権力的なものを分散させて、みんなが平等になることが大切だと私は思うのです。これこそ新しい希望だと思っています。
NFTは私たちがどこにいても、アートの世界をつないでくれます。途上国で生まれた小さなアーティストの私が、NYCに作品を展示できるなんて、本当にWeb3技術のパワーのおかげです。中央集権的に慣れた世界に、NFTが可能にする「分散化」という新しいアイデアを導入するのは難しいかもしれませんが、NFTがWeb3の入り口のひとつになって、人々がより自由に世界中とつながれる新しい文化を作っていくと思っています。
私はただのアーティストで社会への影響力はまだありませんが、アート組という小さなコミュニティの中でも分散化を目指しています。みんなが一緒に平等で楽しいことをやろうとか、お互いに影響しあったりサポートしあったりしています。これが、私が今やりたいことです。
NFTにはこうしたことを可能にする力を感じます。新しい社会のストラクチャーになれるのではと思います。私はアーティストとして、NFTのアートが新しい時代の希望の火付け役となり、人々がこの新しいテクノロジーの可能性を理解し、徐々に受け入れてくれることを期待しています。
――未来のアートはどう作ったり、楽しんだりするようになっていくと思いますか?
国がなくなります。「これがイギリスのNFT」「これがタイのNFT」などの区別はなく、NFTは同じひとつの世界にあります。作品を出して見てもらって、その作品が好きかどうかはみんなが考えます。誰かが決めるのではなく、みんなが決める。そんなイメージを抱いています。
昔の時代でも新しい時代でも、一番大切なのは作品の良さだと私は思います。NFTというと、今のイメージでは金融商品のように見えるかもしれませんが、今でもアート作品を頑張って作っている人がいます。アート組のメンバーはみんな真剣です。こういう人たちがどんどん強くなってNFTで紹介されれば、アートを本気でやっている人がいることをわかってもらえると思います。
■ アート作品は人生そのもの、だから作品を作り続けたい
――りんなさんも本気でアートと向き合っていると思いますが、どんなときに作品のインスピレーションを得るのでしょう。
アートなら何も考えずに手を動かし始めます。描き始めてアイデアに困ると、途中でお風呂に入ったり、散歩したりして、リラックスしたときにアイデアが出ることを期待します。人と話すと、時々意外な質問をされることがありますが、これも良いきっかけです。
作品のコンセプトについてずーっと考えて、描かずに頭の中に入れておくと、あるときイメージが出てくることもあります。下描きはあまりしません。下書きするとイメージ通りにならないので、イメージを固めて一気に描くことが多いです。
アートは作品ではなく、人生ですよね……生き方そのものです。アーティストは、起きているときだけでなく寝ているときも、作品のことを考えています。アートは人生だと思っているので、作品を作ることが人生だと思っています。