墨とCGで、生身の身体とデジタル空間がリンクする世界を描くNFTアーティストNY_さん【NFT.NYC】

6月20日〜23日にニューヨークで開催される「NFT.NYC 2022」。その中の企画である「Diversity of Art Showcase」に、NY_さんの作品が選ばれた。NFTとの出会いは、何を新たに生み出したのだろう。これまでの活動の経緯やNFT.NYCに出展する作品への想い、将来の展望を聞いた。
NY_さんは映像クリエイターとして活躍していたが、「メディアアートに専念したい」と所属していた組織を飛び出した。今、NFTアートによってスポットライトを浴びている。彼の試みはNFTの姿形がない頃から、墨(アナログ)と3DCG(デジタル)の間で育まれてきた。
■ 病をきっかけに本格的なメディアアートの道へ
――今回、NFT.NYCに選出されたと聞いて、どうでしたか?
私はニューヨークで芸術活動をするのが一つの目標でした。そんな私にとって、今回の選出は本当に嬉しいことで、やっと活動の糸口が見えてきたと感じています。昔からの知人からは「やっとここまできたね」と言われました。過去の報われていなかった活動を知っている人からの、喜びとも激励とも言える重みのある言葉でした。
――NFT.NYCには、どんな作品を出展するのでしょう?
今回展示する新作は、龍をモチーフにしました。私にとってニューヨークで展示できるのは今のところ、このワンチャンスのみです。そこで必要なのは難解な表現ではなく、わかりやすく、東洋人らしく、日本人らしいインパクトのある作品でなければダメだと思いました。この作品は、墨を使った日本人っぽさや、荒々しくとも繊細な表現を詰め込んでいます。その点を海外の方に感じてもらえたら本当に嬉しいです。

――NY_さんのこれまでの活動について教えてください。
もともと映像の分野で特殊効果や合成を行っていて、そこからCGを始めて、アニメ作品の演出や監督も行ってきました。3DCGや編集、演出など全部やるのは、映像業界でも珍しい方かもしれません。これは僕自身に「自分の好きなものを自分の手で作りたい」という根本的な欲求があるからだと思いますが。これが後々、メディアアートにつながりました。
10年ぐらい前に大きな病気をして、長く寝込んでしまったことが転機のひとつになっています。当時の僕には、アートに対する明確なビジョンがあったのですが、アートで食っていくのは難しいと考え、演出や映像の方に力を注いでいました。そのストレスが溜まり過ぎてしまったのが病の原因だったんです。
「これじゃいかん、もう動かずにはいられない」と思って、そこからメディアアートを始めました。そして、墨と3DCGで作った絵が額縁の中でエンドレスに動く作品を作りました。今も同じスタイルですが、他には誰もやっていなかったので、世界で初めてだったと思います。
それを発表したら、在シンガポール日本大使館で展示させていただくことになったのです。海外で見ていただく機会が増えた結果、百貨店で販売する機会もいただくようになりました。
しかし、作品がすごく売れたかというと、そうでもありませんでした。お客様は「デジタルアートはコピーされてしまう」と懸念していました。僕自身も、シンガポールの有名なギャラリーを見に行ったのですが、メディアアートの一つにプロジェクターで投影する作品があって「これはどうやって売るのですか」と聞いたら、立派な箱を見せられて、それを開けたらUSBメモリーが入っていたんですね。
僕はこれじゃないと思いました。ただ同時に、動画を額縁に入れるスタイルは正しいとも思いました。動画という形がないものを永遠に存在し続けるような形・状況にする。恒久的な存在価値を創造して、皆さんに認めていただく。そういうチャレンジなのです。ただ、そこから7〜8年は鳴かず飛ばずで、アニメ監督の仕事に注力するようになりました。
しかし2020年の秋ぐらいに、アートだけで食っていこうと一念発起して、当時勤めていた会社を辞めました。最初は借金してでもいいから、好きなことをやろうと。そのとき、NFTはまだ日本では広まってなく、私も知りませんでした。作品がコピーされてしまうリスクがあっても、メディアアートの道へ進む決心をしたのです。
当時はClubhouseが盛り上がっていた頃で、僕もユーザーとして使っていて、とあるルームに参加したとき、NFT事業を進めようとしている方たちとの出会いがありました。彼らと話をしたところ、わかったんです。NFTを使えば、メディアアート作品の「証明」に関する問題を解決できることが。そこで、同年4月からNFT化を始め、作品の販売が順調に伸びていきました。
――墨と3DCGで制作しているNY_さんの作品の特徴を詳しく教えてください。
いろいろな作品がありますが、統一した概念は、目に見えないものを表現することです。例えば、ある作品は自分という人間の中に流れるエネルギーを表現しています。「龍」を描いた作品でいうと、鱗とか爪といったものは一切描いていません。龍の体は、よく見ると高エネルギー体のような、オーラのような形になっています。僕は龍を、目に見えないけれども感じることができる形として描いています。
「hope_I」という作品は、病気になったときに降りてきたビジョンを基にした作品です。墨で描いた暗闇の向こうに、キラキラしているものが光っています。光は希望です。病気のときも、治ったら何をしようかと考えている自分に気がついて、希望があることで人は生きていける、希望ってそういうことだなと思って作った作品でもあります。
――「hope_I」はどのような手法で作っているのでしょうか。
まず和紙に墨で描き、その後3DCGを作ります。作品によって順番は前後することもあり、最初に3DCGを作って、その後に墨というアプローチもあります。墨の部分はこだわっています。私が墨の師匠と崇める、現代書家の永田文昌先生に学ばせていただきました。ブルガリア国立美術館やシカゴ美術館など海外にも作品が収蔵されている、世界的に著名な先生です。私は共通の知人がいたので、出会うことができました。
私の作品については「墨の部分を動かさないのか」という質問をいただきますが、手描きにこだわっています。3Dクリエイターとしては、墨の軌跡を動かすこともできますが、あくまでもそれはCGであって墨で描いたものではありません。
――手で描いたものとCGのそれぞれに、NY_さんの中で明確な定義があるということですね。
そうです。「動かさない墨」と「3Dで動いている部分」をどう共存させるかを考えます。最新の技術やエフェクト、モデリングデータやコンポジットの仕方など、そういうものを四六時中扱っていると、何でも動かせばいいわけではないとわかってきます。
■ NFTとの出会い。初めての個展から一気に状況が変わった
――NFTに話を戻します。最初にNFTにした作品は何ですか?
「gate」という、僕の中では実験的なアプローチをした作品です。3Dだけで作っています。NFTを新たに作ることを「mintする」といいますが、初めてミントしたときは、誰のサポートもなく、全部ネット経由で調べました。ようやく準備したものの、「失敗したらどうしよう」「作品がなくなってしまうのでは」と、とても緊張したことを覚えています。
最初はOpenSeaというマーケットプレイスに出して、その後アートを扱うRaribleに出しました。やがて、キュレーターがいる審査制のマーケットプレイスに出すようになりました。最初はオドオドしながらやっていたという感じですね。
――そこからNFT.NYCに選出されるまでは、どんな道のりだったのでしょう?
2021年7月に、額縁の中にNFTアートを入れた個展を行いました。そこに大丸松坂屋百貨店の方がお越しいただき、「うちで展示しませんか」という話になったのです。「ぜひ!」ということで、その年の11月に東京の「未来定番研究所」で展示していただきました。
この個展は大きなターニングポイントでした。今まで「NFTはわかるけれど、モノではないこと」に懸念を示していた人たちが、僕の額縁の動画作品を見たときに「これを買う」「これが欲しい」となったのです。目の前で、お客様が買うという判断をする――これを「スイッチが入る」と僕は言うのですが、そういう光景を何度も見てきました。ここでもそれが起こったわけです。人間の本質的な、モノを持ちたいという欲求は本当に強いことを実感しました。
そこから多くのファンの方がついてくださって、既存の作品があっという間に完売してしまい、今は1年ぐらい予約待ちの状態です。本当にありがたいと思います。
――不遇のときを経て大ブレイクしたわけですね。勢いのすごさを感じます。ところで、NY_さんが物理的な「額縁」にこだわる理由についてお教えください。
額縁の中におさまっている状態が作品の完成形です。「PCのブラウザから飛びだした状態」こそが、アーティストとお客様が作品というモノを通じてつながっているといえ、とても重要だと僕自身は考えています。作品は、高いものだと数百万円で販売しています。その価値に対して、アーティストとして本気で向き合わなければいけないと思うのです。
だから、作品を楽しんでいただく方に対して、「ブラウザでどうぞ」「ブラウザで見られます」ではないと思いました。僕の中で、より誠実に向き合いたいと考えた形が、額縁に作品をおさめるということだったのです。
■挑戦し続けることに興味を持ってもらえたら
――これから何か新たに取り組むプロジェクトはありますか?
プログラマブルアート(*)に関心があり、いずれ挑戦したいです。また、今の作品たちが恒久的に存在することを目指しています。インターネットがあまり得意ではない方もいるので、この作品たちはオフラインでも成立するようにしています。
一方、オンラインの状態で、NFTの特徴を十分に生かした作品にも力を入れていきたいと思っています。額縁に入っているもののネットにつながっていて、その日の気温や天候によって作品の色が変化するようなものにも取り組みたいです。
ただ、それは次のフェーズと思っています、僕自身の作品性をもっと高めていくこと、アーティストとして腕を磨いていくことが必要だと思っています。
*コンピューターのプログラムによって生成するアートのこと
――NY_さんは、これから先、どういうふうになっていきたいとお考えですか。「作品性を高める」とは具体的にどう進化していきたいイメージでしょうか?
僕はデジタルとアナログの間のアートをやっていると思っています。ですので、デジタルとアナログの間に向いた人にお会いしたいです。デジタルとアナログの間の価値観を広めるには、1人のアーティストの力だけでは限界があり、経済に精通しているパートナーのように、僕のチャレンジを一緒に進めてくれる方が必要と感じています。
海外に拠点を持って、海外で展示とアプローチをやりたいとも思っています。日本的なアプローチで、日本人の持つ細やかさをアピールしていきたいのです。実力のある日本人クリエイターが、しっかりと稼げる環境作りにも貢献したいと思っています。
――すでにグローバルにも目が向いているのですね。最後に、NFTアートに興味を持つ皆さんにメッセージをいただけますか。
これからデジタル化が進んで、あらゆることがデジタル一色になるようなイメージを持つ人も多いと思いますが、デジタルをバリバリやってきた僕の中にはそのようなイメージはありません。人の生身の体がある以上、生身の体とリンクする部分がどうしても欲しくなるのは避けられないと思っていて、そのような作品を手がけています。
僕は今、新しい挑戦を行っています。NFTに興味を持たれたときに、そんな挑戦をしている人を見ることがあったら、応援していただけると嬉しいですね。
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