話題のSF小説「ピュア」をNFT化、2つの英訳版も同時リリース 作家・小野美由紀さん

作家・小野美由紀さんの短編SF小説『ピュア』が11月8日、NFT作品として、マーケットプレイスのOpenSeaに出品された。2人の異なる翻訳者による未公開の英語翻訳版NFTもリリースされ、オークション方式で販売を開始した。

NFT(非代替性トークン)はこれまで、主にデジタルアートやスポーツのトレーディングカードといった分野で注目されてきた。文芸作品のNFT化は珍しい。小野さんによると「小説のNFT化だけでなく、複数の翻訳版も同時にNFT化してリリースしたのは、世界初ではないか」という。

『ピュア』は、”もしも、女性がセックス後に男性を食べないと妊娠できない世界になったら?”というテーマを描いた短編SF小説。ネット上で発表されると大きな反響を呼び、アップルBOOKの「2020年ベストSF」にも選ばれた。

今回は、2020年に早川書房から出版された同名書籍の収録作品を「NFTオリジナル版」として創り直し、NFTマーケットプレイスのOpenSeaで販売する。

さらに、未公開の英語翻訳版もNFT化して出品した。2人の翻訳者による異なるバージョンが両方とも、NFTとして販売されているのが大きな特徴だ。

2種類の英訳版を同時発売する目的について、小野さんは「日本文芸の翻訳家が出版社からの収益だけに依存せず、活躍の機会を広げ、ひいては日本文芸の翻訳文化の発展に寄与する流れを作ること」と説明している。

『ピュア』の日本語版と2つの英語版(アルモニー版テイラー版)は別々にOpenSeaに出品され、オークション方式で発売された。最低落札価格は3ETH(約160万円)に設定されている。

OpenSeaに出品された小野美由紀さんの小説『ピュア』の英語翻訳作品(アルモニー版)

今回のプロジェクトでは、NFTの技術を生かした収益システムが採用されている。最初に作品が購入されたときだけでなく、購入者から別の者へ転売されたときも、著者の小野さんや翻訳者(カラウ・アルモニーさん、ローレル・テイラーさん)に収益が入るという仕組みだ。

NFTとして小説を販売する意義について、小野さんは次のようにコメントしている。

「今、日本文芸は海外でも注目されています。柳美里氏の作品が全米図書賞を受賞したり、イタリアで日本文芸のブームが起きたりしています。今後も日本人作家の書く作品に注目が集まるでしょう。しかし、翻訳家に収益が入りにくい構造では、日本文芸の翻訳文化がニーズに応える速度で発展してゆくのは難しいでしょう。こうした状況に応えるために、NFTなどのブロックチェーン技術が活かせるのではないかと思い、今回、自作の英訳版のリリースの場としてNFT市場を選びました」